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454day wed 6/8 ※R18
佐々木さんとは、部署が違うから滅多に会うことがないけど、あれから数回遠くから見かけた。
思い込みかもだけど、なんか無口になってる気がした。
あんなにパワフルで元気な女性だったのに。
あれから桐生は彼女にどういう態度で接したんだろうか。
あいつのことだ。うまく丸め込んだんだろうか。
それとも手酷く傷つけたんだろうか。
俺から何かを聞けるわけも無いけれど……。
嘘くさい……。
こんな彼女を哀れむようなことを考えているふりをして桐生が自分を選んだことに優越感を覚えているんじゃないだろうか……。
本当は桐生を取られなくて、どこかでホッとしている自分がいる。
あと1年も無いんだ。それまで俺のものにしておいてくれないか……と心のどこかで思ってる。
醜い。俺はどんどん汚くなっていく。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「さっちゃんーー!」
静かなシステム開発部の中に大きな声が響く。自分をそんな風に呼ぶ人間は1人しかいない。同期で同窓で、この会社の社長である山田だ。
部署のみんなももう慣れたもので、ピクリともせずキーボードを打ち続けている。
「社長」
「……さっちゃんはやめてくださいと……」
「じゃあ、深森部長?」
「それもちょっと……」
「なんでもいいよ。そんなことより病気なの?」
「は……?」
「ほら! 痩せてる! やつれてる!」
山田は俺の顔を両手で掴むと大声で叫んだ。
「……イヤ、大丈夫ですから!」
「大丈夫じゃなーい! さっちゃん明日から有給3日。一緒に温泉いこーー!」
「はぁ?」
「社長命令だからね! 調整して」
山田は直属の部下である真部に向かって宣言した。
「イヤ、本当大丈夫だからさ、心配してくれてありがと」
つい敬語が取れてしまうが、山田は全く気にしていない……というか、聞いてない。
「ごめんね〜~働かせすぎだよーーブラックブラック! さっちゃんがあんまり仕事熱心で優秀だからーーついみんな無理いっちゃうんだよね~〜温泉行って美味しい物食べてゆっくりしよーー」
つか自分が行きたいんだろうな。
やれやれとどうするかなーーと考えていると、バン! と大きな音がして、後ろから山田を追ってきた専務の八魂が彼の後ろ頭をはたいていた。
「痛いーー!」
「何馬鹿なこと言ってんです? ご自分の仕事はどうするつもりですか?」
「そんなの、凛ちゃんがやっといてよ! どーせ、ほとんどやってるでしょ?」
そんなことを部下たちの前で堂々とカミングアウトするのもどうかと思うが全く悪びれる様子もない……。
「もう決まりだからねーー! 強羅の禧久屋さん予約取ってねーーいつものイッチバンいい部屋ね!」
ピキ! と空気が凍りつく。
やばい怒ってる。ものすごく!
そしてその怒りは全て俺に向いている。
鬼のような形相が
(健康管理くらいちゃんとしろ!)と語っていた。
理不尽すぎるーー!
しかしこうなった社長が絶対曲がらないこともお互い長い付き合い。
わかりすぎるほどわかっていた。
「楽しみーー温泉! 温泉! 明日の朝迎えに行くからねーー!」
ああ、もう色々めんどくさい。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「社長と温泉行くそうですね?」
「なんかそういうことになった」
「ひどいじゃないですか? 他の男と温泉に行くなんて」
珍しく連絡なしで家に立ち寄った桐生は会うなり文句を言った。
「棒読みだぞ」
思わず笑ってしまう。桐生が嫉妬するなんて演技でしかないのに、解ってはいても期待してしまう自分が嫌になる。
「まあ、あのこども社長の性格は解ってますし、深森さんとの長い信頼関係も理解してますから」
信用してます。と言いながらキスをしてくる。
どうでも良いくせに……。
考えられもしないが、もし山田とそういう関係になったら桐生はどういう反応をするのだろうか。少しは怒るだろうか?いやに2年が1年になるだけの話か……。
それだけは絶対にいやだと思ってしまう自分にゾッ……とする。
一体いつの間に自分はこんなにも彼に依存してしまったのか……。
「……ちょ……」
桐生はワイシャツの襟元を緩め首元にキスをしてくる。思わず、ぎくりと身を引いた。
「明日温泉入るんだぞ!」
「俺以外の男と一緒にでしょ?」
怒っている? のか。いや違う。こいつ楽しんでる。
「俺のものだってマーキングしとかないと」
「やめ……頼むから!」
なんとか逃げようとするがあっという間に組み伏せられてソファーに倒された。
「ごめんね。大丈夫。跡はつけないから抱かせて」
絶対に嘘だ。解っているのに、なのに、俺は頷いてしまう。
甘い香りのローションを塗った桐生の綺麗な手が体を這うと理性が壊れる。
まるで犬のようにこの香りを嗅ぐとあの快楽がもらえるのだ体が覚えてしまっていて俺はその誘惑に逆らえない。
唇から喉元、胸元に滑る唇が裏切って今にも噛み跡をつけるんじゃないかと思うといつも以上にゾクゾクした。
「ひどいよね、俺が跡つけるんじゃないかってずっと疑ってる……」
前をにぎられ、射精を止められたまま後ろから入った指でずっと前立腺を刺激し続けられている。
強く弱く、俺が反応するのを冷たい目が観察していた。
苦しい……気持ち良すぎるのにイケない…。
「も、無理だ……離して」
出させて欲しい。じゃないと気が狂う…!
「社長に知られるんじゃないかって怯えてる」
わざと…わざと乳首を舐めながら喋っている。暖かい息が、振動が気持ち良過ぎて辛い。
「俺に抱かれてるのに、ずっと頭ん中に他の男がいるよね」
冷たい声。怒っているのか? 嫉妬? 違う。違うんだ。
これは自分のおもちゃを取られた子供のそれだ。
解ってる。解っているのに、嬉しくて体が反応してしまう。
桐生は俺が気持ち良いてたまらないところを狙って中に入った指をグッ……っと強く押した。
「……あ、ああ!」
体は跳ねる。強すぎる快楽を吐き出すことが出来ず性器の先がじんじんした。
「も、もう無理いかせて……手、離して……!」
「俺のこと好き?」
「好き! 好きだから!」
「そんな言い方。俺が無理に言わせたみたい」
自分を覗き込む、冷たい冷たい綺麗な桐生の顔。
ゾクゾクと背中に快感が走る。
気持ちいい。気が狂いそうに気持ちがいい。
「……好きだ……このまま殺されてもいいよ……」
必死に手を伸ばして耳元でやっと口にする。
満足そうに笑う桐生の顔が見えると同時に強く突き上げられて桐生の腹にべっとりと精液を放った。
「……ふふ。大好き」
そのまま嬉しそうに俺を揺さぶりながら桐生が囁く。
「……ほんと食べちゃいたい」
首元でガリ……っと音がして痛みが走る。
「あ、ああ…!!」
瞬間またイってしまった。
上機嫌で俺を覗きこむ桐生の顔。綺麗で、残酷で、壊れている。
手のひらで胸に触れるとぽっかり空いている深い闇が見えた。
それが悲しくて、愛しくて、どうしようもない……。
深く穿たれ強く縋りつき、こんなにも隙間なく一つになってるのに、どうしてお前はこんなにも遠いんだろう……。
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