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435day fry 5/20
スープ部門の【ぬっくんロボキット】は無事にリリースされた。
結局、桐生の案が採用され、スープのベースの色もぬっくんと同じカフェオレ色のミルクカレーになり、具材にはイヌ型に抜かれた野菜が入ることになった。来週からスープ屋の各店舗に並ぶらしい。
佐々木さんには『ありがとうございます』と幾度もお礼を言われたが、俺のアイデアじゃないのが心苦しかった。だが出どころを言う訳にもいかないしな。
「私と、付き合ってくれませんか?」
完成打ち上げの飲み会の後、佐々木さんから告白された。恥ずかしそうに、真っ赤になって目も合わせられないと言った表情で、でも勇気を出して言ってくれた感じだった。
「ごめんね……」
ものすごく申し訳ない気持ちになったが、断った。
きっと桐生のことがなかったら付き合っていたと思う。体は小さくて細いのにすごくパワフルで明るくて、料理が上手で、誰よりも謙虚で。すごく良いお嫁さんになりそうな女性なのに、俺なんかが断ってしまって傷つけただろうな。
彼女となら楽しい未来が築けたかもしれない。
でも今の俺には無理だし、そんな資格もない。
桐生との関係が終わったら、俺はまた誰かを見つけるんだろうか……付き合って結婚して、子どもを作って……きっと母さんも喜ぶだろう。
だけど、どうしてもそんな未来が想像できなかった。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「今日ね。スープ部門の佐々木さんとデートしてきましたよ」
金曜の深夜。急に家に立ち寄った桐生はにっこりと笑いながら言った。
「……! お前、まさか俺への当て付けで彼女と付き合ったんじゃないだろうな?」
「嘘でしょ? 俺が浮気したことより彼女の心配してるの?」
桐生の顔色が変わる。
今までに見たこともないくらい冷酷な顔をしていた。
「簡単でしたよ。深森さんに告白して半月もたってないのに、俺が誘ったら、すぐに食事についてきて、そのままホテルに行きました。1回寝たくらいで結婚したいって言ってきましたよ? 図々しい女ですね」
嘘だろ……俺のせいで……?
「体だって深森さんの方が全然気持ちよかった」
「やめろ! 頼むから、俺以外の人を傷つけるのは止めてくれ!」
「まだそんなこと言ってんですか? あなたが言うことはそんな事じゃないはずです!」
底知れぬような不機嫌な声と表情。腕を思い切り掴まれると、ベットに放り投げられた。
「俺はあなたを裏切って女と寝てきたんですよ!」
桐生は俺を見下ろしながら怒鳴るように言った。
「……ね? 俺の匂い嗅いでみて?」
抱き寄せられた胸から微かに甘い花のような香りがした。
「あの女の香水です。ナチュラル派なのかな? やっすい香り」
どうしてこんなことになったんだ? 頭が混乱して目眩がする。
「すぐに次の男に乗り換えるぐらいの! その程度の思いで、俺からあなたを取ろうとするなんて!」
どうすれば正解なんだ?
彼女を庇うほど逆上させてしまう。
「……頼む。誰とも寝ないでくれ……」
言うと、桐生の顔が途端に和らいだ。
「うん。ごめんね。もうしないから……」
さっきまで激昂していたとは思えない優しい声。
そのまま桐生はキスしてきた。
彼女ともしてきたんだ。ほんの少し前に……。
「やめてくれ……」
……辛い。
強く抱きしめられると彼女の香りが強くなった気がした。
「ごめんね。俺のこと許せない? もう嫌いになっちゃった?」
嫉妬なんかじゃない。
こいつはネズミをいたぶる猫と一緒だ。
腹も減ってないのに、ただ楽しいから捕食する。
わかっていても抗えない。
「嫌ってないよ……」
「ほんと?」
上機嫌な声。それが背筋が寒くなるほど不気味で恐ろしい……。
「ああ……」
そのまま桐生は体を合わせてくる。
イヤだ。せめてシャワーを浴びて欲しい。
だがそんなことすら言えない。
お前に嫌われるのが怖くて仕方がない……。
俺なんて、女性の柔らかい肉体に叶うわけもないのだから……。
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