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496day wed 7/20

 週末はどちらかの家で過ごし、たまに平日に桐生が俺の家に顔を出す。  笑えるほど表面上は恋人同士の関係だ。  桐生は既婚者じゃないけど愛人ってこんな気持ちなのかな……。  決して触れてはいけない部分を避けながら日々をやり過ごしている。  結末はわかっているのに、もしかして全てがひっくり返るんじゃないかとずっと期待している。自分の生活も倫理観も、プライドも全てを覆すような、こんなものが恋愛なのか……少しも楽しくない。苦しい。なのにお前の手をどうしても離したくない。  あと8ヶ月余り……。  週末2日。月だと8日位。大体64日くらい。  仕事が詰まればもっと少なくなるだろう……。  今すぐこんな関係やめればいいのに、俺はその時間が捨てられない。  どうせ終わるんだから何も今すぐじゃなくていいだろう……とずっと自分の中から腐った声がしている。  ・・・・*・・・・*・・・・*・・・・ 「……お前のヤケドの原因、教えてくれないか?」  食事の後、コーヒーを飲みながら、話すことも思いつかず、ずっと思っていたことを、ふと口にしてしまった。 「え、俺前に説明しましたよね?」 「そうだったな」  やっぱり言わないか……まあそうだよな。俺はお前にとって信用に足る人間じゃないんだろう。 「ふーん。深森さんの頭脳で俺のこと分析し始めたんだ? いいですよ。教えてあげる。でも深森さん優しいから、聞いたらもっと俺から離れられなくなっちゃうよ」  ……不安定な桐生の表情。やっぱり聞いてはいけなかったんだろうか。 「これはね。もともとはタバコの跡。母親がね〜〜親父とセックスした後に俺につけるんだ。母さんは親父が大嫌いなんだよ。母さんの実家、京都の没落貴族みたいな老舗でさーー14歳の時に26も年上の成金の男に買われたんだって。16で俺ができて結婚したんだけど、親父にそっくりの俺が大嫌いなんだよね」  小さな子供が母親に押さえ付けられ柔らかい内腿にタバコを押し付けられる姿が目に浮かんで……ぞっ……っと背中に悪寒が走った。 「でも母さんが俺に触ってくれるのはその時だけなんだよね。俺嬉しくてさ。射精しちゃったことがあって『そんなに私のこと好きなの?気持ち悪い』って……母さん、泣きながら笑うんだ……」 「もういい! もういいよ! 辛かったな」  どこか遠くを見ているような顔をして人事のように淡々と話す桐生を思わず抱きしめてしまった。途端に桐生の顔色が一変する。 「こんな話、嘘に決まってんだろう! ホントあなた騙されすぎだよ! バカすぎ! だから俺みたいなのに付け込まれるんだよ!」  俺が回した腕を乱暴に引き剥がすと、桐生は怒鳴るように言った。  ……らしからぬ、口調。  真実を語っているからだろうな。 「……今日は帰ります」  小声でそう言うと、そのまま目も合わさず桐生は帰ってしまった。  ちゃんと最後まで聞けなかった。なんで話を遮ってしまったんだろう……俺が聞くに耐えなくなって耳を塞いだんだ。あいつの傷にちゃんと向き合ってやれなかった。  もともとは……ってなんだよ。  桐生のヤケドの跡は内腿の広範囲に広がっていてタバコみたいな小さな跡ではない。最初に言っていたアイロンの跡だと言う方がよっぽど近い気がするが……。  は……っと思い当たった想像に、すぅ……と血の気が下がった気がした。  アイロン……を充てたんじゃないだろうか……自分で。  母親を守るために……。

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