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660day sat 12/31
来たいと言うので今年の帰省も、桐生を秋田の実家に連れてきた。
イメージで判断してしまっていたけど、桐生はこの雰囲気が好きなんだ。こんな田舎の面倒な人間関係も今までにお前が経験したことがないものなんだろう……。
人のいい田舎のおじちゃんとおばちゃんばっかだし。そうだよな。ここ全く邪気がないもんな。来年は連れて来れないけど、楽しんで行けばいいよ。
「ちょっと、お兄ちゃん手伝ってよーー」
玄関先で妹の朱 が叫んでいる。昨年は子供が熱を出して帰省していなかったが今年は帰ってきていた。
「今行くよーー」
「俺も手伝いましょうか?」
桐生が一緒に立ち上がった。
「そうだな。お願いするか」
玄関に行くと近所からのお裾分けだという、大量の野菜が届いていた。
「お兄ちゃんはこっち。桐生さんはそっちの野菜を母に渡してくださいね」
手際良く貯蔵庫用と台所用にわけると朱は男手に指示した。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「届いた野菜、ここにおいておきますね」
台所にいる由子 さんに声を掛ける。
大きなカマドの前でバタバタと忙しそうだ。
「何かお手伝いできることあれば言ってください。俺、結構料理得意ですよ」
「じゃあ野菜切るのお願いしようかしら?」
大きな鍋がいくつも用意され、煮付け用の人参や里芋などが下準備されていた。
昨年の様子だと30人はゆうに超える来客用だろう。
「桐生さん上手ね! 助かるわーー」
由子さんは、俺の切った野菜を見て嬉しそうに声を上げた。
コロコロと笑う声と、暖かい笑顔が心地良い。
「お邪魔させてもらっている分いくらでも、こき使って下さい」
「じゃあ遠慮なくーーこっちもお願いねーー」
「深森さん、どんなお子さんだったんですか?」
本当に遠慮なく目の前に置かれた大量の野菜を順番に切りながら聞いてみた。
「ふつーの子よ。私が働いていて夜勤も多かったから、寂しい思いさせちゃったかもだけど、妹の世話をよく見てくれて助かったわ。中学生の時パソコンを買ってあげたらすっごい喜んで、熱中してね。ほんとは地元に居て欲しかったけど、楽しそうだったから東京行くの許しちゃったの。頭だけは良かったからほとんど国公立で済ませてくれたのは、すごい親孝行ね」
俺の切った野菜を手際よく仕分けながら由子さんは答える。
「深森さん仕事もとても優秀ですよ」
「東京での仕事のことは難しすぎて、よく解ってなかったんだけど、去年あの子がテレビに出た時にそれが人の役に立ってるみたいって知って嬉しかった。あなたに無理矢理出されたって聞いたわよ。ありがとね。親戚中で集まってテレビの前に張り付いて見たんだから。あの子が何してても構わないんだけど、やっぱり誇らしかった」
「息子さんを愛してるんですね」
「やだ。そんな改めて言われると恥ずかしいわね! そりゃあそうよ。お腹痛めて産んだ子供だもの。愛さない母親なんかいないわよ!」
野菜を切る手が止まり、不覚にも涙が落ちてしまっていた。由子さんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいるが、上手い言い訳が出てこない。
「桐生君?」
「すみません……みっともないところお見せしてしまって。恥ずかしいので秘密にしてくださいね」
「もちろんよ」
両手が塞がっている俺の頬を手拭いで優しく拭ってくれた。
暖かい。こんな世界があるなんて……。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
今年も、親戚が集まり、夕刻には大宴会が始まった。
また桐生の周りには人だかりが出来ている。
しかも去年より多いな。
自分達のことを詳細に覚えてもらっていたのが嬉しくて、取り囲んでいる親父達メロメロだな……自分のことは棚にあげるけど、ほんとちょろい……。
「理 。あの子大丈夫?」
どうしたもんかとその様子を見ていると、後ろから母さんの声がした。
「だいぶ飲まされてるみたいだけど、あいつ結構強いから大丈夫だよ」
「違うわよ! 相変わらず鈍いわね! あの子だいぶ病んでるわよ」
ビールを片手に隣にどかっと座りながら俺の体を肩でど突いた。
「うん。知ってる。色々あったみたいだけど、こういうとこ来るの好きみたいだから相手してやってよ」
「うちは全然いいわよ。美しいし!」
なんだその理由?
「なんかね〜〜不安定で危うい感じが、母性本能くすぐられちゃうのよね〜〜ほっとけない感じ? 見た目オレ様王子なのに、時折り、捨てられた子犬のような瞳で見るなんてなんてキュンキュンしちゃう! もうそのあざとさ上等! いつでも連れてらっしゃい!」
俺の肩をバンバン叩きながら、母さんは機嫌よくコップをカラにした。
すげーー母さん。さすが看護士。俺が一年もわかんなかった桐生の正体を見抜いてんな。
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