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721day thu 3/2
このところ2日とあけず桐生は家に来ていた。
必ず俺を抱いて、必ず『悲しいですか?』……と聞いてくる。
幾度『悲しい』……と答えても桐生は不満そうだった。
俺も出来るだけ一緒にいたいから、なるべく都合を合わせていて、このところずっと寝不足だ。桐生が来ない日もあまり眠れてないから尚更だった。
「深森さん!」
部署内で移動中、ちょっと足元が絡れてしまい机に手をつくと、慌てて近寄ってきた友久に体を支えられた。
「大袈裟だな。大丈夫だから」
「顔色すごく悪いです。ちょっと休んでください」
確かにさっきから頭痛がするし、体もだるい。昼飯もまだだし少し休憩するか。
「ああ、そうするか……」
そう思い、自分のディスクに戻ろうと、後ろを向いた途端に視界が揺れて、目の前が暗くなった。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「大丈夫〜〜?」
目を開けると山田の顔が見えた。
周りを見回すと会社の仮眠室で俺はベットで寝ている?
そうだ仕事中!
「すみません。すぐ戻ります」
起きようとした体を戻される。
「ダメダメ! 凛ちゃん先生からの伝言でーす! 深森君は早退でーす! 家まで送るねーー」
最悪だ。プライベートのことで仕事に穴を開けるなんて。
「大丈夫だからゆっくり休んでよ。体調悪い時位、任せてもいいんじゃない。みんな優秀だから、ちゃんとフォローしてくれるよ」
言いながら山田はマグカップに入った白湯をくれた。
「……そうだな。悪い……じゃあ今日は帰らせてもらう。でも送らなくていいよ。タクシーで帰るから」
飲むと、ちょうど良いくらいの温度になっていてすごく美味しく感じて一気に飲み干した。
「わかった。気をつけてね」
言うと深追いせず、山田は俺のカバンを渡してくれる。
また心配をかけてしまったな……原因は解ってるんだろうに詮索しないでいてくれる。
友達ってありがたいな。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「大丈夫ですか?」
会社で俺が倒れたと聞いたんだろう。夕方になると桐生が家に顔を出した。
「なんで起きてるんです? 寝ててください。今、お粥でも作りますね」
買って来た食材を冷蔵庫に入れると、手際よく支度を始める。嬉しそうだな……お前と別れるのイヤすぎて、追い詰められて倒れたってことなんだろうな……まぁ間違ってはいないか……。
「はい。口あけて」
作った卵粥を木さじに乗せて冷ますと、口に運んできた。
子どもでもあるまいしと思うが、楽しそうだから、食べさせてもらう。
「おいしい……」
「もっと食べれますか? ゼリーとかも買って来ましたから後で食べましょうね」
可愛いな……もっともっと……と愛情を求めてくる。
気持ちなんか無くてもいい。このままずっと、このぬるま湯に浸かっていたい。
なのに、なんで俺は別れると決めているんだろう……。
「深森さん……」
気づかず、涙が落ちていた。
最高に嬉しそうな顔をした桐生が強く抱きしめてくる。
もう3月。あと何回会える?
あと何回本当のことを言ってもいい……?
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