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1017day sat 12/23

 ……連れて来てしまった。  びしょ濡れの桐生を車に乗せて部屋に帰ってきた。  なんとかベットに転がして服を脱がして体を拭く。少し熱が出ているみたいだから保冷剤を巻いたタオルを額に置いて毛布と布団をかけた。意識はあるみたいだが、寒いんだろう少し震えている。頬を触るとひんやりとしていた。  病院に連れて行くとか他に手段はあったはずだ。ダメだな。徹底しきれてない。 「深森さん……?」  薄く目を開けると、ぼんやりとした表情で桐生が俺を見た。 「……ちょ……!」  伸ばしてきた腕に捕まり、そのまま桐生の上に倒れ込む。 「……あったかい」  暖を取るように強く抱きしめられた。熱は出てるのに体はまだ冷たい。背中を温めるように撫でるとまるで猫のように擦り寄ってくる。しばらくすると、そのままスゥ… …っと寝てしまった。  本当にお前はひどい男だな。  どれだけ俺がこの匂いと体温に飢えていると思ってるんだ。  あれほどの決意があっという間に揺らいでしまう… …。  お前を断ち切るのがこんなにも難しい……半年以上もの間、お前のためだと、どれだけ自分に言い聞かせても心は決して頷いてなかった。  多分もう無理だ。きっと俺は負けてしまう。  確信にも似た予感がする。いや、俺はもうずっと解っていた。  ・・・・*・・・・*・・・・*・・・・ 「起きたか?」  保冷剤を取り替えようとすると桐生が目を開けた。 「俺……?」 「あれからぶっ倒れたんだぞ。何時間もあんな寒い中、雪に降られていたら当たり前だ」 「……来てくれてたんですね」   「お前がいつまでも帰らないからだ」  文句を言ってるのに、俺を見ながら、嬉しそうに笑っている。卑怯者め。 「親父さんの跡を継ぐんだってな。頑張れよ」 「それは頑張るけど……あなたに会えなくなっちゃう。見かけることもできなくなる」  言いながら桐生は上半身を起こして、俺を見上げた。 「ねぇ深森さん。信じてもらえないと思うけど、俺あなたがいいんです。あなたが俺のこと嫌いでも、軽蔑されてても、あなたじゃなくちゃイヤなんです。迷惑なのは解ってるけど、いなくなる前に、それだけは伝えておきたくて……ごめんなさい。誰でもいいなんてわけなかった。そんなこと思わせてたくさん傷つけてた」  久しぶりに正面から桐生の顔を見たな。もう横顔を見ることしかできないと思っていた。辞めてしまえばそれすら無くなると思っていたのに。以前ずっと感じていた何かが欠けているような不安定な雰囲気はもう感じない。成長した強い意志が見えた。 「今日は来てくれてありがとうございました。あと、迷惑を掛けました。俺帰ります」  桐生は頭を下げるとベットから出ようとしたが、ふらついて倒れそうになる。 「まだ、無理だ。熱がある。それに夜中だし服も乾いてない」  思わず抱き支えた体はまだ熱かった。 「ごめんなさい。ごめんなさい!」  背中に回された腕が強くなる。 「謝らなくていい……俺は解っていてお前のそばにいた」 「お願い。俺のじゃなくてもいい。もう少し。もう少しだけ誰のものにもならないで!……俺、あなたに選んでもらえるように頑張るから!」  すがりつきながら必死に訴えてくる。  俺にはわからない。これが演技なのか、本心なのか……。  わかっているのは自分の心だけだ。  くそう……!!  正しいとか、間違ってるとか。  お前の将来とか。幸せになって欲しいとか。  そんなこと、もう知ったことか!!    もう限界、もう無理だ。  どうしても、どうしても、この男が欲しい……!!  しがみ付いている桐生をベットに押し戻して貪るようにキスをした。歯列を割って舌を吸ったり、舐めたりした。深く絡めたり、浅く軽いキスを幾度も繰り返す。唇を話すと桐生がなすがままで呆然としているのがすげー可愛い。顔が真っ赤だ。こんな顔もできるんだな。 「いいの? 俺、もう一度、あなたに触っても」 「触ってくれ。触って欲しいんだ」  抱きしめられた桐生の腕が震えているのが分かった。 「大丈夫か。まだ具合が悪いな」 「違います。その……俺、緊張して……」 「お前いまさら何言ってんだよ。今まですげー散々なことしてたくせに」 「そのままじっとしてろ」  少し汗ばんでいる喉元を舐める。肩甲骨や形よくついた薄い腹筋も、かわいい。全部食べてしまいたい…。 「ちょ、ちょっと待ってください!」 「ダメだ」  下半身に辿り着くと、桐生は慌てて身を引こうとしたが、腰を掴んで、少し立ち上がってきているものを口に入れた。途端に大きくなってびっくりしたが、桐生が自分にしたように舐めたり吸ったりすると震えてる手が俺の頭を掴み感じていること伝えてくる。もっともっと気持ちよくなればいい。軽く噛むと口の中に桐生の精液が思いっきり入ってきた。少し咽せたが、出たものを全て舐めとって飲み込んだ。汚いとも、嫌悪感も全く感じなかった。むしろ嬉しい。 「ほんとに苦いもんなんだな」 「信じられないーー! 何するんですかーー! 深森さんはそんなことしなくていいのに!!」  桐生は両手で顔を覆いながら、真っ赤になってジタバタしている。  ホントこいつ。可愛いな。 「俺がしたいんだから好きなようにさせろ」  内腿のヤケドの跡が目に入る。間近で見ると表面がデコボコに隆起していて二重に傷をつけたことがわかった。  痛かっただろうな。  体も。心も。  幾度も。幾度も。  大好きな母親から。  その跡にキスをすると、ビクリと桐生の体が跳ねた。大きな傷跡をなぞるように舌を這わす。こうやって舐めたら治ればいいのにな……。 「やめてください。そんなことされたら俺……」  また硬くなってきた桐生のものを口に入れた。傷に触れながら舐めるとそのたびに口の中でビクビク反応するのが分かった。 「ごめんなさい。ごめんなさい。出ちゃう!」  子供の顔と子供の口調。出たものを飲み込みながら、いつか聞いたヒドい言葉を思い出した。 「そんなに俺のことが好きなんだな。嬉しいよ。桐生」  言うと桐生は強く抱きついてきて、子供みたいにわんわん泣くと、そのまま眠ってしまった。目が腫れて真っ赤だな。いい男が台無しだ。  桐生の頭をポンポンと撫でた。  大丈夫だ。お前はちゃんと愛されているよ。  愛しい……。  この男がたまらなく愛おしかった。  いいよ。  もう好きなだけ俺を試せばいいよ。  いつかお前が俺を捨てても構わない。  その日までそばにいたいのは自分のエゴだ。  ・・・・*・・・・*・・・・*・・・・ 「体調はもう大丈夫なのか」 「大丈夫です。迷惑かけました」  土曜日だというのに会議があるらしい。サービス業だと土日休みってわけじゃないんだな。一度家に帰って着替えると言ってるが、新社長がこんな顔で出席して大丈夫なんだろうか。 「これ俺の家の鍵です。もう一度もらって下さい。住んでもいいですよ」  さりげなく言おうとしているが、桐生の顔が物凄く緊張しているのがわかった。大体まだ目が腫れてるし、スーツもコートも乾かしただけだからシワ入っちゃってるし……髪ははねてるし、だいぶかっこ悪いぞ。  答えは決まっているんだけど、なんて言ってやったらいいかわからなくて黙ってると不安そうな顔がずっと自分を見ている。もうお前はすっぴんに見えるけど、俺はまた騙されているのかな。もうそれでもいいと決めたんだけど……。 「お願い。お願いです! もう一度、もう一度だけチャンスをください。絶対に今度は傷つけたりしない」  沈黙に耐えきれなくなったのか、桐生が叫ぶように言った。 「……俺、明日誕生日なんだけど」 「え? ……あ……そうですよね」  急に話を変えられてキョトンとしている。  ほんと表情も仕草も以前と違っていて不思議な感じだ。 「去年みたいになんでもくれるか?」 「え、ええ。もちろん。俺にできることだったら何でもします」 「じゃあ、おまえをくれ。おまえの未来を奪うことになるかもしれない。それでも俺はどうしてもおまえが欲しいんだ」  強く抱きしめられると頭の上から涙が落ちてきた。 「不良品でも返品不可ですからねーー」 「ひでぇ商品だな。それより、お前それ以上目ぇ腫れたら会社行けねーぞ」  言っても腕は緩まないし、涙もぼたぼた落ちてくる。 「俺の誕生日にも同じのくださいよーーーー!」 「いいから会社行けよ」  俺を離さず、いつまでも動こうとしない桐生をなんとか玄関から追い出した。

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