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731day sun 3/12  side k

 どうやってあなたに伝えようか……きっと喜んでくれる。  日曜日だし、美味しいものを食べに行ってそこでゆっくりこれからの話をしよう。    意地悪してすみません。と言おう。あなたが俺と別れるのをこんなに嫌がってくれてほんとに嬉しかった。もっともっと一緒にいましょう。と言おう。  きっと忘れられない日になる。  ・・・・*・・・・*・・・・*・・・・ 「2年間ありがとな桐生。俺の家の鍵を返してくれ」  ジャリっと言うイヤな金属音がして深森さんは鍵を机の上に置いた?  え、何? 聞き間違いかな? 「深森さん。ちょっと待ってください。おかしいです」 「何がおかしいんだ?」  深森さんは否定をしない。聞き間違いじゃない……!! 「あんな約束、嘘に決まってるでしょう? 俺は別れるつもりはありません」 「その割にはずいぶん揺さぶってくれたな。お前がその気がなくても俺はそのつもりだ。返せ。お前が言ったんだろ?『一度くらい結婚してみたい。彼女が出来たら綺麗に別れてあげます』って」  彼女? 彼女ができたから俺と別れたいってこと? 「好きな人が出来たんですか?」 「お前には関係ないし、大体お前がうろちょろしてたら出来るもんも出来ねーだろ?」  え、何言って? 深森さんはさっきから淡々と絶対に言うはずの言葉を吐いている。 「一方的過ぎじゃないですか? 話くらいさせてください」 「気が済むまでしたらいい。だが俺の気持ちは変わらないからな」  ちょっと待って。頭が混乱して追いつかない。  あり得ないことが起きている。  そうだ。あんな約束で追い詰めたからきっと怒っているんだ。  とにかく、謝らないと。 「……えっと……まず、謝ります。俺調子に乗って深森さんの嫌がること沢山しました。でもそれは、あなたが好きで困らせてみたくて、子供っぽいですよね。でも俺のくせで……」 「俺はいい大人だし、お前と同じ男だ。強制されたことでも自分で決めたことだと思ってる。だからお前のしたことは関係ない」  深森さんの頭脳で逃げ道を塞がれた。  本気? 本気なんだ。本気で俺と別れるつもりなんだ! 「……と、とにかく別れるのだけは考え直してください。俺の気に入らないところは全部、直しますから」 「別れる理由は一つだ。お前は俺を愛していない」 「何言ってるんです? 違います!」 「違わない!」 「あなたに俺の心がわかるって言うんですか?」 「お前は自分をより愛してくれる人間が好きなだけだ。間抜けだよな。お前は一番最初に答えを言ってくれていたのに俺はずっとそのことから目を逸らしてしまっていた。いつか、俺よりお前を愛する人間が現れたら、お前は俺の手をあっさり離すだろう。俺はその恐怖に耐えられない」  違う! ……いや、違わない。俺はずっと探していた。  俺のことを誰よりも母よりも愛してくれる人を。  でもそれを認めたらあなたに捨てられてしまう。 「違います……」 「確かにお前の気持ちだから、本当のことはわからないな。だが最初からの約束は履行してもらう」  もう全部バレているんだ。だから俺は見限られたんだ。せっかく手に入れたと思ったのに! 誰よりも俺のことを思ってくれるはずの人をやっと見つけたのに! 「こんなのはおかしい!」  絶対に嫌だ! おかしい! こんなはずじゃない! 「どうして! どうして言わないんです! 別れるのは嫌だって! 絶対あなたはそう言うはずなんだ! そのために今までずっとずっと甘やかして愛して来たのに!」  俺が大声を出しても深森さんは少しも表情を崩さない。  嫌な予感がどんどん大きくなる。  とにかく、とにかく話を聞いてもらわないと……。 「……大声出してすみません……もう少し冷静になって話しましょう。そう、そうです。昨日あんなに俺の事好きって言ってくれたじゃないですか?」 「あんなの誕生日のリップサービスだろ」  深森さんの表情は硬く、冷静で絶対に気持ちを翻さないと言っている。  どうしよう……どうしたらいいんだ。 「もういいな。帰るから鍵を返せ」  終わってしまう。もう手立てがない。  嫌だ。もう嫌だ。どうして俺は誰にも愛してもらえないんだ!  また捨てられるんだ。また、まただ。  誰にも愛されない。何をしても、どんなに求めても手に入らない。  いやだよ……もうひとりになりたくない。  愛してたのに俺を捨てるの?  もう嫌いになったの?  そのくらいの愛情なの?  もとから愛してないの?  やっぱり俺は誰にも愛してもらえないの?  細く白い手にそっと触れるたびに叩かれて拒絶された。  体の奥から湧き出るような苦い悲しみが蘇る。   「まって……まってよ……」  なんでもする。なんでもするから……。 「いやだよ……すてないで……いい子にするから……なんでもするから……」  おねがい。おねがいだから。  つぎのことばを、いわないで……。 「ゲームはここまでだ。桐生。全てお前の計画通り、ちょうど2年。プライベートでは二度と会わない。仕事以外では声もかけるな」 なのに……深森さんは、はっきりと残酷な言葉を口にした。  

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