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第28話「寝落ち通話の行方」

遠くで呼ばれているような気がする。 《ーーー、くん、》 いや、案外近くかもしれない。 《たーーくん、鷹夜くん!?》 「んっ?ん?なにっ?あれ?」 いや、もの凄く近くで声が聞こえる。 《鷹夜くん!!目覚まし超うるさい!!》 「え?あ、」 ジリリリリリリリリリリリリ 「あれッ!?」 あまりにもうるさい目覚ましの音が鷹夜の疲れ切った頭にやっと響き渡った瞬間、飛び起きた彼の手は枕元の携帯電話をはじき飛ばし、ベッドの下にバンッと大きな音を立てて落とした。 《わ!?鷹夜くん!?》 「へっ!?何で芽依くんの声!?あれ!?目覚まし何処!?」 電話口の向こうでドタバタと騒いでいる鷹夜の足音に、芽依は朝から盛大に笑った。 小躍りでもしながら目覚まし時計のベルを止めに行っているのだろうかと思う程に床を蹴っているからだ。 しばらくしてうるさい音が止むと、携帯電話が床から拾い上げられるザラッと言う音がする。 「昨日どうなったんだっけ!?あ、おはよ」 《うははは!!おはよう鷹夜くん!早起きだね。まだ6時じゃん》 律儀に挨拶してくれるところが最早「鷹夜らしい」とすら思え、芽依は嬉しくなって笑いながら挨拶を返した。 「え。そうかな。じゃねーよじゃねーよ、何で電話繋がったまんまなんだよ!!」 朝からヘラヘラしている芽依の声を聞きながら、鷹夜は呆れてため息をつき、音を止めたまま手に持っていた目覚まし時計をベッドの上に放って座った。 人に呼ばれて起きるなんていつぶりだろうかと変な恥ずかしさに見舞われてもいる。 《ごめん。人の寝息聞いてないと死にそうで怖かった》 「君昨日自殺しようとしてたよね!?今更何言ってんの本当に、、あーもー、切るよ。俺、朝の準備あるから」 (通話代ヤバいことになってそう、、) またため息を漏らして芽依は通話終了ボタンに親指を近づける。 《待った待った待った!話し聞いてすぐ終わるから!》 「はあ?あのな、普通のサラリーマンの朝は忙しーの!!切るよ!!」 《一瞬だから!お願い!一生のお願い!!》 「っ、ふはっ、なにそれ、あはは」 あまりにも久々に聞いた「一生のお願い」と言うフレーズに思わず鷹夜は笑ってしまった。 まさか朝からそんなに軽いノリで使われるとは、一体どんな願いだろうか。 (仕方ない) ベッドの上に放った目覚まし時計は6時4分を示している。 「分かったよ、なに?」 《ありがと!!あのさ、、えーと、》 「早くしろ」 《た、鷹夜くんさあ!俺と友達になってよ!!》 「はっ、、、、?」 雨宮鷹夜はこの世に生を受けて今年で30年になる。 それなりに地上の生活は長く、慣れてきたなと言う余裕が少しだけ湧いてきた頃だった。 30年の中で「友達になって」とお願いされたのは中学校以来である。 実に15年ぶりくらいのそんな誘いに、懐かしさと共に違和感が芽生えていた。 (この子は昨日まで俺を騙してたんだよなあ) いや、実際には今もかもしれないのだ。 俳優・竹内メイ。 あまり深くは知らないけれど、去年スキャンダルで騒がれてからあまりテレビにも出ていなかった彼は、最近になって「僕たちはまだ人間のまま」と言うドラマに出演し、主演を務める事になって再び世間の目を集めている。 元々はかなりの演技派だった筈だ。 一時期はアイドル活動もしていたと今田が言っていた気がする。 (多分、竹内メイってのも嘘なんだろうな) そうだ。考えてみればおかしい。 芸能人が、自分みたいなただの一般人と友達になりたいか? 果たして、昨日彼が言っていた彼の身に降りかかった様々な災難が事実だとして、彼が竹内メイだったとしても、自分と芸能人が繋がれるなんて到底鷹夜には考えられなかった。 「うーん、、」 もしこれで相手が一般人で、自分が竹内メイだなどと言わなければ、鷹夜は迷わず友達になる。 けれど、現在進行形で嘘をつかれている可能性が拭えないとなると悩んでしまった。 そう言う遊びなら悪趣味だ。付き合いたくない。 本気で自分をそう思っている人間なら離れなければならない。それはこの電話の相手が相当な心の病と言う事になる。 でももしも、本物なのだとしたら、、、。 「芽依くん、あのさ。悪いんだけど、君が竹内メイって言うのがまだ信じられないんだわ。昨日話してたことを全部嘘だと思って聞いてたとかじゃないんだけど、なんて言うか」 言いにくい。 昨晩話した限りこの「竹内メイ」は、元々はきっと悪意を持って人と関わるような汚れた人間ではないのだ。 悪くは言いたくない。 「もし嘘なら、今ここで本当の名前が知りたいし、本当は何してる人なのか知りたい、かな。友達になるなら全部正直に教えて欲しい。芸能人と友達になりたいとか思ってないから。君自身とは友達になっても、まあ、いいかな?と思えるんだけど」 《んー。そうだよね》 芽依はしばらく間を空けて考え込むように唸ってから、「ごめん、時間ないんだったね」と言って話し始めた。 《鷹夜くんの言い分はもっともだと思う。俺がやったことだけど、俺でも鷹夜くんが疑いたくなるの分かる。だから、、あのー、》 「ん?」 照れた様にまだ寝起きの頬をかいて、目を擦り、深呼吸をして。 芽依は決意を決めた。 《リアル、でさ、会わない?》 「、、、は?」 それは芸能人の彼にとって、大きな賭けでもあった。

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