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第29話「友達になろう」

「どぅはっあ、あぁあーー、、」 「うわ、びっくりした」 会社の自分の席に着くなり、鷹夜は通勤途中から色々考え過ぎて詰まった息を盛大に吐き出した。 鞄はドッと机の上に置き、同時にデスクトップパソコンの電源を入れる。 隣の席の今田は顔を引き攣らせながら鷹夜に挨拶をした。 「どうしたんすか」 「え、、、、何でもない」 「絶対何かある間の置き方!!どうしたんすか?新しい女の子見つけました!?」 落ち込んでいる訳でもなさそうな鷹夜の態度に、まさかもう新しい女の子が捕まったのではないのかと今田ははしゃぎ始める。 駒井の席は遠くの島にあって、鷹夜達がいる「施工デザイン課」の席の島には容易に遊びに来られない。 上司達の目を盗んでふざけにくるよりも、昼休憩まで待って休憩室で合流した方が心置きなく寛げるのだ。 「見つけてねーよ」 実際問題、気になるボタンを押してくる人間の全てが芽依なのではないかとここのところビクビクしてしまっていて、婚活アプリにも力を入れられていなかった。 (俺は友達じゃなくて彼女が欲しかったのになあ〜〜) 今朝の繋がりっぱなしになっていた通話を思い出す。 「会うって、、え、君と?」 《そう!!もっかい会えば俺だって分かるっしょ?》 「うんまあ、うーーん。うーんと、いや、」 《あ、分かった。じゃあ今度のキュキュ午後!の生放送出るとき、雨宮さん見てるー?って言うからリアタイで見》 「やめろやめろやめろ!!そう言うのはファンが悲しむだろ。あー、じゃあえっと、明後日は?土曜日だし、今週は多分休日出勤しなくて大丈夫だから」 《土曜日俺も半日休み!!午後からなら何処でも行けるよ!》 「行かねーから。ピッと会ってパッと解散でいいだろ」 《えー、、そっか。分かった。じゃあ昼飯一緒に食べよ?すぐ解散するから》 一般人と一緒にいて平気なのか。 そんな気軽に店に入って平気なのか。 いくつも質問をして確認をしたが、芽依から返ってくるのは「だいじょーぶ!」と言う信用していいのか心配の残る快い返事ばかりだった。 結局2日後の昼食を一緒に取る約束だけして、2人は電話を切った。 (迎えに来るとか言ってたなあ、、自宅がバレる。それはいやだ。新宿駅に集合とかにしよ) 鷹夜が持っていない事もあり、芽依が車を出して彼を迎えに行く事になっている。 基本的に芸能人に入る芽依は中谷の迎えで彼女の車に乗って仕事場へ行き来しており、プライベートのときは自分の車での移動が多い。 やはり人の目は避ける様にしていた。 (本物なのかもなあ。似てたもんなあ。でも俺の見間違いかもしれないし、、いやでも、分かんないわ) 自分の席の椅子に座り、がくーんと肩を落として呆けた顔をした鷹夜は天井を見上げて息をつく。 朝から無駄に疲れた彼は、まだ始業時間にもなっていないと言うのに既に昼休みと退勤時間が待ち遠しくてならなかった。 (何か、面倒なことになったなあ) 昨日の通話で削られた睡眠時間の事もあり、鷹夜は異常な眠気を感じながら午前中の仕事を始めた。 「今日どうしたの?すっごい演技良かったじゃん!褒められてたよ?!」 中谷の声に振り返った芽依は上機嫌ににまりと笑った。 「頑張ったよ中谷〜!」 「デレデレしてどうしたのよ〜!新しい女でもできたか?スキャンダルじゃないだろうね?」 「んぶっ!」 締まりのない表情を怪しんだ彼女に顔を掴まれ、両頬を内側に潰されながらもにもにと揉まれる。 口の内側の肉が歯に擦れて地味に痛い。 「違うぅっ痛いっ、から、やめへっ」 「アンタのそう言う顔はあ、彼女ができたときに見せるやつでしょおがあ」 「ほんとおに、ちぃがっう、からっ、痛えわッ!!」 192センチの大男が中谷のふっくらした手を掴み、150センチ弱の身長の彼女の腕をバッと上にあげる。 子供が大人にバンザイさせられているような図が、撮影スタジオの隅に出来上がっていた。 「本当に女の子じゃない!俺、あれ以来マジで女の子と関わってねーから!マジで!!」 芽依は中谷の疑いに対して全力で抗議した。 「ふーん。まあメイがそこまで言うなら信じるわ。手を離せ」 「あ、さーせん」 その日の撮影はやたらと好調で、芽依のメンタルが安定しているのだと、旧知の仲である中谷からすれば表情の柔らかさや演技の内容の解釈の仕方で察しがついた。 おまけにずっとにまにましているものだから、まさかまた女ができて調子に乗っているのではないのかと朝の撮り始めからずっと様子を伺っていたのだ。 結局、昼休憩に入る今になって「大丈夫だよな?」と声を掛けに来たところだった。 「じゃあ他に何かいいことあったの?」 「ん?うん!」 「何?危ないことじゃないよね?」 今日の弁当は「田原屋」と言う老舗弁当屋の1番高い幕の内弁当だ。 ガチャン、とドアを開けて相変わらずひとつしかない演者用の楽屋に入ると、松本がマネージャーに買ってきてもらったコンビニの唐揚げを、珍しく監督達の休憩室ではなくこちらの楽屋に来ている魚角に配っているところだった。 「ずーっと友達になりたかった人と、やっと友達になれそうなんだ〜!」 「っ、はあ??」 芽依は心底嬉しそうに、ニッと笑った。

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