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第43話「友達になってよ」
「送った店のサイト見た?」
「あ、うん見た」
「どこ行くか決めた?」
「いや、ごめん」
「ふはっ、謝らなくていいって!ねえ、鷹夜くん」
「え?」
コインパーキングまであと少しと言う、少し暗く、街灯の間隔が長い道に入った。
人がいないのをいい事に、芽依は掴んでいた鷹夜の腕を引き寄せて鼻先が触れ合いそうな距離まで顔を近づける。
「ッ!?」
「もしかして、緊張してる?」
月明かりと、オフィス街からこぼれてくるチラチラとした明かり。
大通りから響いてくる車の音は遠く、住宅街の静寂の中にいるのだと良くわかった。
芽依の目の中にいる自分の顔があまりにも間抜け面をしていて、鷹夜は途端に顔が熱くなっていく。
(竹内メイって、こ、こんな、格好いいんだッ)
テレビで見るより、雑誌で見るより、実際に見る竹内メイの顔面の破壊力に変な汗がダラダラと背中を流れていった。
(ヤバい、何この良い匂い、同じ男だよなあ!?てかまつ毛なが!!え、無理、無理無理無理無理無理、カッコ良すぎる!!竹内メイ!!)
緊張しているに決まっていた。
何言ってんの、と言い返しそうになったが、あまりにも近くで超絶なイケメンを見ているせいか舌が上手く回らない。
「ぁ、あ、っと、」
「あ!!待った、忘れてた!!」
「え!?」
ハッとして、突然芽依はそう言った。
「あのさ、俺と会うのが嫌だったから残業したとかじゃ、ないよね?」
「、、、は!?」
芽依は鷹夜から連絡をもらってからずっと不安だった事を口にした。
初めは騙していて、謝ったと言っても電話越しで済ませてしまっていた自分と本当は会いたくなかったのではないか。
だから今日、「ごめんね」とメッセージを送って来たのではないか。
悩んだ挙句、芽依は松本に言われた通り、どう思ってるの!?と彼に聞く事にしたようだ。
「違う違う違う!!それはない!!」
今度は舌がやたらと回った。
鷹夜は慌てて首をブンブンと横に振り、必死に芽依に自分の気持ちを伝えようと彼を見上げる。
仕事が入って、会えなくなって、どれだけ落ち込み、悲しかったかを。
「会いたかったんだよ本当に!!」
「え、」
気持ちが溢れて思わず芽依の腕を掴み返した。
「朝、芽依くんが電話切った後に後輩から電話きて2人で休日出勤するはめになって、どう考えても夜までかかるような修正見せられて絶望して、上司が下らない理由で俺に連絡しろって後輩に指示したって聞いてはあ!?ってなったし、断らなきゃって思ってもう悲しくて悔しくて、俺だって今日楽しみにしてたし、それに、」
鷹夜の目の中に映る自分が、芽依には新鮮に見えていた。
演技をこなす仕事をしている彼としては、誰かとのこの距離感も、誰かの瞳に自分がいる事にも慣れていた。
けれどそれはここのところ常に「演技をしている自分」であって、今、鷹夜の目の中にいるような、期待して、少し焦って、何故かドキドキしながら彼を見下ろす子供のような顔をした自分ではない。
「それに今めっちゃ嬉しいよ、君に会えて」
鷹夜は真剣な顔で力を込めて言った。
「んー、、うー、、はあ〜〜良かったあ〜〜〜」
「おわっ」
ドン、と鷹夜の肩に額を乗せて押し付け、脱力しながら、芽依は長く息を吐いた。
「だ、大丈夫?」
お互い掴んでいた腕を放す。
鷹夜はもたれかかってくる大きな身体に困惑しつつも、何だかおおきな子供が甘えて来ているように思えてその背中に思わず手を回し、トン、トン、と優しく叩いた。
「ごめん〜、あ〜〜カッコ悪いよね、緊張してたの俺じゃん、も〜〜ホント最悪だ、あ〜〜」
背中を叩く程よいリズムに安堵したのか、芽依は更に力を抜き、心の声のようなそれをだらだらと口からこぼしていく。
「元々俺が鷹夜くんに色々したからこんがらがったのに、あ〜〜〜、き、嫌われてるのかなあってすげー怖くって、あ〜、ぅあ〜〜〜」
ぐり、ぐり、ぐり、と鷹夜の骨張った薄い肩を抉るように額を擦る芽依。
彼なりに不安が消えて、ドッと安心感が胸を締め、苦しくて立っていられなくなっている。
興奮して無理に明るく振る舞ってはいたが、実際には芽依はずっと鷹夜の反応が怖かったのだから当たり前だ。
身体は強張ってしまっていたから、力が抜けて鷹夜と同じように少し震えている。
どちらとも格好の悪い大人だった。
「良かったあ、超怖かったあ、んぐ〜〜、ダメだ力抜けた、脚ガックガクだわ。運転すんの怖え」
「ふっ、あはははは!思ったより子供だね、芽依くん」
「はあッ!?」
バッと顔を上げたが脚の震えは止まらない。
芽依は鷹夜の両肩に手を乗せて支えにした。
「テレビの中じゃあんな格好いいのに、何だよー、会うの芸能人だしイケメンだしってこっちの方が緊張してたのに」
「芸能人だって人間だからな!?」
「んっふふふふ、めっちゃ少年じゃん、ウケる、いい、めっちゃいいよ芽依くん、すごい可愛い、ふふふ」
こちらも緊張が解け、変に気取る必要性も澄ました感じもなくていいのだと理解した鷹夜は笑いが止まらなくなった。
芽依の手が乗った肩をふるふると震わせながら笑って、じわりと滲んだ涙を手の甲で拭う。
「最初はこんなやつ、とか思ったし、会いたくねーとかあったけど、もう全然ないよ。天下のどエロイケメンがこんなに可愛いとは思わなかった」
安心したように嬉しそうに笑う彼を間近で見て気恥ずかしさもあったが、芽依は鷹夜が自分に好印象を抱いてくれた事にはホッとしている。
ここまでが長かった。
こうしてきちんとお互いを認識して、お互いに会おうと思って会うまでが。
「その、、ごめんね、鷹夜くん」
だからこそ、きちんと見つめ合い、面と向かって謝ろうと芽依は口を開く。
その真剣な表情を、側にある街灯の明かりが柔く照らしていた。
「うん。もういいよ、芽依くん」
鷹夜の右手が彼の黒い帽子に乗る。
「謝ってくれたから、もうおしまい」
そう言う鷹夜の顔は、会社の後輩のフォローを終えた後のような、少し疲れの見える居心地の良さそうな穏やかな表情をしていた。
「俺、芽依くんのこと好きになったよ。だから、友達になってよ」
ニコ、と笑いながら、手の下の帽子をワシャワシャとズラして遊んだ。
「っ、うん!!」
大人で格好いい。
鷹夜の見せた少しくたびれた歳上の男の顔に、芽依はどくんと心臓が鳴るのを聞いた。
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