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第49話「乱闘疲れ」

「やっぱ、」 「?」 「やっぱ芽依くんの方が絶対キスシーンも格好いい〜〜!!」 (は!?) 何を言ってるんだか、とコケそうになったが、一瞬ジェンに見惚れていた鷹夜が再び「タスクの方がいい」と言ってくれた事に、やはり嬉しさが込み上げてくる。 「ブフッ」 「あっ?、、あ?おい、芽依くん、おい、起きてるだろお前!!」 「んふッ、んははははっ!!鷹夜くんボロ泣き、あははっ!」 激し過ぎる感情移入にとうとう芽依が噴き出して笑うと、鷹夜はどこから見られていたのか、いつから独り言を聞かれていたのか分からず恥ずかしさが込み上げて彼を叩き始める。 「起きてんならッ起きてるって、言え!!」 「痛いッ、いてえ!やめて!」 バシッバシッと肩と頭を叩く痛い音が響く。 あまりにも激しく叩かれ、最終的にクッションで殴られ始めた芽依は「ぎゃー!」と言いながらわざと転がってソファから落ちた。 「いてー!!足の上乗るな!!」 ラグの上のテーブルをテレビ側に押してズラし、足の上に乗った巨体をまた叩きながら鷹夜がドスンと座り込む。 「ねえクッションなし、ねえ!!」 「うるさい人の感動を返せこの馬鹿!!覗き魔!!」 「覗いてねーし!あはは、鷹夜くん、ほら、叩かないでよ」 クッションを振りかぶっている鷹夜に向かって寝転がったまま両手を伸ばす芽依。 彼は未だにボロボロ泣いているのだ。 「何だよ」 「きーてーよ。泣いてるまんまじゃん」 「、、ううっ、タスクぅ、何でお前選ばれなかったんだあ」 「俺も知らねーよ!!」 泣きながら座り込んだ鷹夜の顔に手を伸ばし、芽依は両手で彼の頬を包んで親指で涙を拭ってやる。 30歳の男の泣き顔を見るのはこれで2回目だった。 「いい奴すぎるんだよお〜、馬鹿たれ〜」 「もういいって。鷹夜くんなら俺、、じゃねーや。タスクを選んでくれるんでしょ?」 「お前どっから俺の独り言聞いてたのお」 「忘れた」 グイグイと目元を拭き、芽依はニヒヒッと笑う。 感情ジェットコースターな鷹夜の反応を見ているのは、その辺の下手くそな役者の演技よりも面白かった。 「タスクぅ〜!!俺が幸せにしてやるからなあ〜!!」 「はいはい、ありがと〜」 寝転がる芽依の上に倒れ込み、鷹夜は彼の分厚い胸板に顔を埋めて抱きついた。 落ち着かせるように鷹夜の背中を叩きつつ、芽依はふ、と笑って息をつく。 (面白いなあ、鷹夜くん) 予想できない鷹夜の感情の揺れや反応、リアクションに笑い、心地良い体温にまた瞼が重たくなって来ていた。 (いつぶりだろ、、泰清や荘次郎でもない他人の体温だ) やたらとあったかく落ち着く温度の身体は、芽依を抱きしめたままゆっくりとこちらに体重を掛けてくる。 「、、ん?ん?待て、まさか寝た?」 だらりとした身体がズッと重たさを増した。 腹筋に力を入れて鷹夜を見下ろすと、自分の胸板の上にスヤスヤと寝息を立てている彼がいた。 「鷹夜くん、ねえ、ソファで寝たら?」 「んー、、」 芽依の声がうるさかったのか、低く唸ると鷹夜は顔だけ向きを変え、そっぽを向いてしまった。 「おいコラ!!あー、もう、起きろ!」 バシッと背中を叩くと、今度は何か文句を言いながら芽依の身体の上から退いて、ラグの上にうつ伏せに寝転がる。 またスースーと寝息が聞こえてきた。 「一回寝たら起きないタイプかな!?」 そう言えば電話も毎度鷹夜の寝落ちだったな、と思い出しながら、ぐんと起き上がった芽依は鷹夜の身体を無理矢理起こす。 「鷹夜くん、ほら、腕こっち」 ラグの上に座らせたが、目は閉じたままだ。 勝手に腕を自分の肩に掛けさせ、芽依は鷹夜の目の前にしゃがむと、思い切り彼の尻を持ち上げて膝の上に乗せ、勢いよく立ち上がった。 「んぐッ、、」 「よっ、と」 出会ったときから身体の薄さが気になっていたが、やはり鷹夜は軽い。 (ごじゅう、、56とかそのくらいか?) いやに軽いな、と思いつつ、鷹夜を抱きあげた芽依は彼の尻の下で手を組み、脚の間に自分を挟ませたままズンズンと歩いて寝室に向かった。 歩くたびに鷹夜の頭が肩の上で揺れている。 (眠い、、今何時だ) 「んー、、明日昼まで寝そう」 むにゃ、とあくびをして寝室のドアを開け、暗い部屋の中を真っ直ぐ歩いてベッドの目の前まで来ると、背中を丸めてゆっくりと鷹夜の身体を下ろしていく。 そう言えば、明日は久々に完全なオフを貰えたのだ。ゆっくり昼まで寝ていてもいいかもしれない。 「ん、、」 ベッドに下ろした鷹夜から規則正しい寝息を聞くと、芽依は身体が一段と重くなった。 「、、寝顔、初めて見た」 いや、今日は初めてのことが多過ぎた。 笑顔も、泣き顔も、寝顔も。 落ち着いた大人の顔も、全て初めて見た。 泣き顔は2度目だったけれど。 前に会ったときはただ悲しい顔だったが、今日は本当に楽しそうに隣にいてくれた。 全てが新鮮で楽しく、幸せな日だったな、と芽依は1人、ソファに戻ってごろんと横になりながら考えた。 (こんな良い人を捨てる女がいるんだ、、そりゃ、俺も騙されたりするよな) とろん、と眠くなってまぶたが閉じる。 テレビを消したので、部屋は真っ暗でシンと静まり返っていた。 『俺が幸せにしてやるからなあ〜!!』 頭の中に、泣きながら抱きついてきた鷹夜のひと言が蘇った。 「、、幸せだよ、ありがとね」 ふあ、とまたあくびをすると、とうとう睡魔に負けて意識を手放した。

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