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第56話「指先のエロス」

鉄棒とジャングルジム、滑り台の周りで散々水を掛け合い、最後は2人して仲間に裏切られ、水鉄砲ではなく水風船を顔や背中にぶつけられて全身ずぶ濡れになったところで退散した。 「ふはっ、やべえ!ケータイ忘れてた!!」 「ホントだ!!あ、意外に濡れてなかった」 「え?、、あ、ホントだ」 芽依の尻ポケットはあまり濡れておらず、鷹夜が携帯電話を入れていたサコッシュは水を弾く素材でできていた為、お互い大笑いする程に心配する必要がなかった。 2人が一歩一歩と踏み出すたび、ぼたぼたと水が滴ってアスファルトを濡らしている。 「一旦俺ん家帰ろ!貸せる服あると思うから」 「ひ〜〜、靴まで濡れた」 「靴は貸せない、、あ、サンダルあるわ!サンダル貸す!」 日曜日の街行く人間達に不審な目で見られながら、全身びしょ濡れの2人は競うように走ってマンションまで帰った。 エレベーターを水浸しにする訳にもいかず、仕方なく階段で8階まで上がる。 「大体ッ、鷹夜くんのせいだよな?ッ、これ!」 「え、そう?はあ、はあーー、やっとついた8階〜!」 先についた芽依はさっそく受け取ったばかりの鍵で鷹夜の家のドアを開ける。 「風呂場に突っ込め!行け行け!」 「え、俺後でいいよ、」 「先行けって。俺は芽依くんが着れそうな服探すから!」 トン、と背中を押され、芽依は玄関を入ってすぐそこにあるドアノブに手を掛ける。 鷹夜は靴を脱ぎ捨てるとそそくさとドアを開けて部屋に入りいつも干しっぱなしにしているバスタオルを素早く掴んで取ると肩にかけ、クローゼットを見に行った。 「、、、」 芽依は風呂場に入り、服を脱ぐとトイレのフタの上に置いた。 「湯沸かし器付けたー」 鷹夜が部屋の方のドアを開け、芽依のいるユニットバスに向かって声を掛ける。 「ありがとー」 ハンドルを捻ると、シャワーではなく洗面台の吐水口からバシャッと勢いよく水が出た。 「あれっ?ん?何だ?鷹夜くーん、シャワーこれ、どうなってんの、あ。これか?」 ガチャッ 「なに」 「うわあッ!!」 芽依が閉め忘れていたシャワーカーテンには少しもカビがない。 鷹夜はこう言ったものは使い捨てと考えていて、1ヶ月に一度は買い替える様にしている。 呼ばれたなと思って風呂場のドアを開けると、素っ裸の芽依が驚いて壁の方を向いた。 「あ?」 「見んなよ!!」 「は?めんどくさっ、、あ、こう言う蛇口分かんないの?ここのやつ回すとシャワーと蛇口切り替わるから」 「こっち来んなよ!!」 今更人のちんこを見て驚くわけがないだろう。 30年間自分のちんこを見続けておりちんこ慣れしている雨宮鷹夜は何故そんなにも芽依が自分の性器を見られたがらないのか理解出来なかったが、そう言えば銭湯でも隠す人は隠すな、と変に納得して、けれど遠慮はせずに風呂場に入り、シャワーと蛇口の切り替えハンドルを手前から奥にグッと押した。 「うわあっつッ!!」 「冷たいの出すよー」 お湯の赤と水の青の丸いマークがついたハンドル1つずつと、用途切り替え用のハンドルで計3個。 その内、芽依が捻ったのはお湯の出るハンドルだけで、本来お湯と水どちらも捻って温度を調節しないといけない作りの蛇口だった為、彼の身体にかかったのは完全な熱湯だった。 「ホテルとかこう言う蛇口多くない?」 「ホテルだとお風呂って中谷が貯めといてくれるから、久々でテンパって見落としてた」 熱湯の掛かった足にしばらく水を掛けてから、芽依はちょいちょいとハンドルを調整して温度を確かめていく。 シャワーのノズルは手に持っていて、熱湯は足に一瞬かかっただけだ。 火傷などはしていなかった。 「ごめんごめん、言っとけばよかった」 「あ、いや、、て言うかこっち見んなよ!!」 「いや、あんまりにも隠すから気になって」 もはや湯船の中に座り込んで足を閉じ急所を隠している芽依を見下ろし、ふふふ、と鷹夜は不敵に笑う。 「出てってよ!えっち!」 「奥さんえらいええ身体してまんなあ」 「誰ッ!?そして俺も誰ッ!?」 鷹夜は湯船の中で体育座りをしている芽依に近寄り、湯船のフチに手を掛けながら浴室に敷いた足拭きマットに膝立ちをして彼を見つめた。 視線はまだ、鷹夜の方が高い。 「ちんこは見せませんよ」 「興味ねーよ」 ふっふっふっと鷹夜が笑う。 フチに右手で頬杖をついた。 (あ、子供扱いしてる) どこか茶化すようなあやすような笑い方に、ふん、と口を尖らせた。 「前髪、役で伸ばしてんの?」 「え?」 湯船の外から伸びてきた手は、目にかかるくらいに長く重たい芽依の前髪をサラリと指先に掠めて遊ぶ。 「っ、」 「短い方が似合うよ。星降る丘の、って映画こないだ見た。あのときくらい」 左目にかかっていた前髪をどかす手は震えてすらいない。 よく見ると、鷹夜の爪は綺麗に切り揃えられていて、余計な肉がなく指が細い。 男らしく関節は骨張っていてゴツく、骨組みを感じる動きをする。 鷹夜が言った「星降る丘の」は芽依、泰清、荘次郎が映画デビューした作品で、もう随分前の映画だ。 知り合ってから嫌なところばかり見せて来たのに、邦画嫌いの彼がそれを見てくれていたのだと知ると一気にバクバクと心臓がうるさくなった。 堪らなく嬉しい。 「あ、あれ役で短くしてて、、今も役で伸ばしてる」 「そっか。俳優も大変だなあ。染めまくって毛根痛めて禿げんなよ」 「ひと言余計なこと言うよな今日!!」 ワシワシと自分の頭を撫でる手を叩き落とすと、芽依は鷹夜を睨み上げた。 「ごめんごめん。パンツ、買ってから開けてないやつだから普通にもらって」 「ん、、ありがと」 そう言ってバスタオルと着替えをトイレのフタに置き、置いておいた濡れた服を持って出て行ってしまった。 (し、心臓に悪いなあの人!!) ドッドッドッと、また血流がうるさい。 シャワーの温度を少し下げる事にした。

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