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第72話「離れていく」
ブブッ
「んー、、?」
火曜日。
鷹夜が担当したデザインの店が先週の頭から工事に入った。
1週間経ってやっと、現場担当の部署に引き継げるまで落ち着いたところだった。
土曜、日曜と潰されて、月曜、火曜は休みを取っていた鷹夜はその音で目が覚めた。
昨日も結局は現場にいる他部署からの連絡で1日中電話に付き合い、休むに休めなくて疲れが溜まっている。
昼手前に鳴った携帯電話の音に、「またか」と思いながら掛け布団を剥がして起き上がり、壁に背中をつけてしばらくボーッとした。
そうしながら、現場の担当者からなら電話がかかってくる筈だな、と気が付いた。
「かけるよー」と一々連絡を入れるような人でもない。
(じゃあ誰だ?)
他に連絡が来る相手なら1人いる。
鷹夜は少し期待しながら手を伸ばした。
(、、あ、違った。芽依くんだ)
しかし通知はその相手ではなく、昨日1日連絡がなかった芽依からのメッセージが届いていた。鷹夜は少し肩を落とし、うーんと頭を捻る。
(何だ、もう連絡してこないのかなと思ってたのに)
身体が重く、頭もうまく回らない。
鷹夜はとりあえず充電器を外し、携帯電話を取って画面に触れ、連絡用アプリを起こした。
昨日は丸1日、芽依からの連絡がなかった。
ダラダラと続いていた会話が終わったな、と鷹夜自身はその程度にしか取っていなかったが、これを機に疎遠になるかもしれないと思ってもいたのだ。
[夜、鷹夜くん家行っていい?]
「、、、」
どうでもいいが、大体彼は唐突が多い。
「急だな」と口元を緩めながら、やっとゲームができるかもしれないと返事を打った。
[いいよー]
少しだけ夜が楽しみになった。
明日からまた仕事があり遅くまで起きてはいられないが、それでもいいだろう。
久々に会う彼と何を食べようかと考えながら、大きく伸びをした。
ブブッ
「ん?」
返事が早い。
寝ている途中にタイマーをかけた為に切れたクーラーを再びつけ、暑過ぎる部屋の中を歩く。
通知の入った携帯電話を持ったまま窓に近寄ると、空気を入れ替える為に戸を少し開けた。
厚手のカーテンを開くとカラッとした熱い日差しが部屋に差し込む。
「まぶし」
不細工な顔をした。
鼻に向かって顔全体をグシャッと縮め、日差しを正面から身体全体に受け止める。
そうすると身体が「起きます」と認識するのだ。
さて、それが終わると部屋の中を見回し、またとっ散らかったペットボトルや食べ終わったコンビニの弁当の容器にため息をつく。
片付けをしないといけない。
鷹夜は項垂れながら芽依からの返事を見た。
「あれ?」
芽依からの返事は来ていなかった。
代わりにLOOK/LOVEから通知が来ている。
[新しいメッセージが届きました]
「!」
鷹夜が待っていた方の通知だった。
昨日、月曜日。
芽依は撮影中もずっと松本に日曜の昼過ぎに言われたあの台詞について考えていた。
『タカヤさんは都合良くメイさんの寂しさ埋めさせられてたってことっすか?』
「、、、」
そんな訳はないと何度も心の中で答えているのだが、言葉の重みを感じる事が自分自身で出来ていなかった。
(そんな訳ないのに、、、)
やはり重たさが出ない。
ならば本当に鷹夜で自分の寂しさを埋めていたのだろうか。
そして冴が現れたからといって、ずっと利用してきた鷹夜を捨てようと言うのだろうか。
自問自答を繰り返しても、「逃げたい」と言う答えしか浮かばなかった。
そして逃げたいと思うたびに、また松本の言葉が蘇ってくる。
『人と関わるならもっと丁寧に、大切に扱った方がいいですよ』
人を大切だと思う事に、過ごした時間と言うのは関係がある場合とない場合がある。
芽依にとって鷹夜との時間は関係なく、鷹夜にとってもそうだった。
けれど彼らの違いは「大切」と言うものの捉え方、重さにはある。
(俺は人のこと大事にしてないってこと?してるよ。してる、絶対ちゃんと大事にしてる)
大切にしていると言うのなら、今までどうしてスケジュールを教えて休みを合わせなかったのだろう。
近場の休みしか、芽依は鷹夜に教えたことがない。
自分の休みが少なくて会える機会があまりないのに、鷹夜が提案してくれる日をいつもつっぱねて「この日にして」と押し付けることはできる。
そして彼に仕事が入って会えなくなった先日、途端に当たりたくなる程にイラつくことはできた。
なのにどうして努力はできなかったのだろう。
(大事にしてるって、、だって会いに行ってたじゃん)
でも松本に言われるまで冴の事でいっぱいで、彼を思い出さなかった。
(恋なんだからいいじゃん、冴に恋したんだから、)
今だって連絡を取り合っている。
今度はいつ会う?とお互いのスケジュールを見比べている。
(だって違えじゃん、めんどくせえな!!)
確かに違う。
恋と友情なら、扱いに差は出る。
彼の中ではその程度のものなのだ。
月曜日は丸々考え込んでしまい、後ろめたさを覚えてしまった芽依は鷹夜のメッセージに返事をしなかった。
そのくせ、冴には7月後半に1日だけ取ってある確実な休みの日に会おうと約束を取り付けた。
(冴にも合鍵渡そう。と言うか、鷹夜くんのを返して貰えばいいよな)
そうなれば自分も鷹夜の家の鍵を返さないといけない。
なんて事は頭にも浮かばず、芽依は都合の良いところだけを考えて、早めに終わるかもしれない明日の夜に鷹夜の家に行こうと思い付いた。
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