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第131話「アイスとキス」
「アイス食べたい」
お湯の中に鷹夜が射精してしまった為、湯船から出ると栓を抜き、白い何かがゆらゆらしている湯を全て流して、一度シャワーを浴びた。
十分に温まった芽依と鷹夜は脱衣所に出て体を拭き、先に鷹夜の髪の毛を芽依が乾かしつつ、そう言った。
「あ〜、そういうこと言うなよ。めっちゃ食べたくなる」
ブォーっとドライヤーをかけられながら、鷹夜は目を閉じて洗面台の鏡の前に立ち、髪の毛をワシャワシャと撫でられている。
恋人に髪を乾かしてもらう、と言うのは何とも贅沢な気分だ。
しかも、鷹夜の彼氏と言うのは世間では有名な俳優・竹内メイとして活躍している小野田芽依なのである。
贅沢も贅沢だ。
鷹夜は、日和と付き合っているときはこんな事をした瞬間も確かにありはしたが、お互い面倒くさがりなので一瞬でやめたなあ、と思い出したりしていた。
(イケメン彼氏が髪乾かしてくれてる、、至福のとき)
少し眠い。
心地良くなった鷹夜は眠そうで、ほんの少しだけ目を開けた。
「俺あれが良いなあ。硬めのコーンのやつ」
「分かる。美味いよね。んー、俺、今はゴリゴリくんかなあ」
「定番だなあ」
芽依の言葉にニッと笑うと、今度は鷹夜が芽依の髪をドライヤーで乾かした。
鷹夜よりも幾分も背が高いので、無理矢理中腰にしてやった。
乾かし終わると「腰痛い」と文句を言われたが、鷹夜は無視してフルチンのままリビングに向かう。
「パンツパンツ」
「ねえアイス買いいこーよー」
「また近くのコンビニ?芽依、この辺に住んでるってバレるよ?」
「多分もうバレてるよ」
「うーわ」
呆れたように笑って、鷹夜は脱ぎ捨ててきたパンツを履き直し、Tシャツを着て、芽依から借りたスウェットを履いた。
芽依も追いついて身支度を整えると、一応、とマスクをつけ、帽子を被る。
確かに彼がこの辺に住んでいる事はもうバレているが、しつこいファンやストーカーは事務所に言えばすぐに対処してもらえるのでその辺で困った事はない。
何よりスキャンダル以降は警戒心が高いので、芽依はあまり窓のカーテンを開けない為、下手な写真が撮られたり、このマンションの何階に住んでいるかまでは、バレた事はなかった。
「鷹夜くんもマスクと帽子しない?」
「え、何で?」
乾かし終わった髪をモシャモシャと触りながら、無造作ヘアの鷹夜がこちらを向いた。
「鷹夜くんがしょっちゅううち来ても、マスクと帽子お揃いにしとけば仲の良いタレントと良く遊んでるだけって周りが勘違いしてくれると思わん?」
「あ!確かに!天才だな、芽依」
キャッキャッとはしゃぎながら鷹夜は芽依から帽子を借り、使い捨てのマスクをつける。
ついでにTシャツはブランドものの高いものと換えられた。
「パンツも買お。今日履いてたやつ履くの気持ち悪い」
「微妙に置いてったやつとか置いてあるけど、鷹夜くんの着替えってちゃんとはないよね、うち」
「ないな」
「明日買い行かない?」
「んー、うん。行きたい。最近服とか買ってなかったしな」
「俺コーディネートしてあげるーー!!」
「無理。やめろ。12万のTシャツとか買わす気だろ」
「買わさんよ。人を詐欺師みたいに言わないでよ」
ちなみに今、鷹夜に着せているのが例の12万のTシャツだ。
いつも通りエレベーターで1階まで降り、今日は地下駐車場ではなく正面の玄関から外に出た。
コンビニは5分程歩いた先にあるビルの1階に入っている。
大通りを歩いてから、噴水やら現代アート作品が置かれている広場の向こうにあるビルだ。
「アイス以外は?ポテチ?」
「太るぞ」
「鷹夜くん太らせたいから買うわ。パンツは?」
「あ、忘れてた」
鷹夜は男性もののSサイズのチェック柄のトランクスを芽依の持っているカゴに入れた。
(Sサイズ、、ぷりってしてるけど、お尻ちっちゃいもんな)
思わず鷹夜の尻に手が伸びそうになったが、自分の立場を思い出して、芽依はそれをグッと堪えた。
家に戻ると、時刻は23時45分を過ぎていた。
「そういえば、このドラマっていつ頃撮り終わるの?」
「ん?もうそろ終わる」
「あ、そーなん」
「映画できるってさ」
「ええっ!?」
会えなかった1ヶ月分の「僕たちはまだ人間のまま」を見ながら、鷹夜は芽依にそんな質問をしたところだった。
満腹だった筈が、途中で嘔吐してしまった事もあり、鷹夜は芽依が買ってくれたポテチをバクバクと食べている。
ちなみにそうせざるを得ない勢いで芽依が彼の口元にポテチを押し付けているのだ。
「はい食べて」
「ん、、、え。映画はマジなの?」
「こないだ急に中谷に言われた。ごめんね、口で伝えたかったから黙ってた」
「いいよ全然!!やったな!特大スクリーンで竹内メイを拝めるのか、、一緒に観に行こうな!」
「試写会呼んでいい?」
「えっ」
押し付けられるポテチを片っぱしからパリパリモグモグ食べていた口が止まる。
目を見開いた鷹夜は固まって芽依を見つめていた。
「ん?」
「そ、、そう言うのがあるのか。彼氏が俳優だと」
「ふはっ!そうだよ、今更?」
ぱち、ぱち、と驚いてゆっくりと瞬きをする鷹夜に吹き出して笑った芽依は、嬉しそうに隣に座っている彼の肩にもたれかかった。
「て言うかさ、このドラマもさ、最後にキスシーンあるし、映画も多分あるんだけど、そう言うのはいいの?」
「ん?何で?別にいいよ」
「ええーッ!?俺だったら絶対ヤダ!!彼氏が他の女とキスすんのやだ!!」
「うるさっ」
耳元で騒いだ芽依の頭をポンポン、と雑に撫でて落ち着かせると、鷹夜は再びテレビに視線を向ける。
撮り溜めていた「僕たちはまだ人間のまま」は5話目、令嬢であり婚約者・湖糸が、どうにも同じ会社の社員である悠太郎と疑わしい関係にあるようだ、と湖糸の婚約者、片菊が演じる優作が勘づき始めたところだ。
「うう、、嫌だ。誰ともチューしないで」
「はいはい」
「エッ!?そうだよ、鷹夜くん!!駒井さんとか会社の人とチューしないでね!?同性だろうが異性だろうが絶対許さねえから!!」
「しないよ」
「あっ、、、し、しないの?」
日和のときはしていたのに?
芽依はサラッと答えた鷹夜の横顔を見つめた。
「しないよ。芽依としかしたくない」
「あ、、、」
何とも感動的だった。
その辺だけはガードが緩いと元々感じていた芽依としては、死ぬ程心配な部分だったからだ。
仕事だろうと他の女性、たまに男性ともキスをしたりハグをしたり、またはベッドシーンで際どいものも撮らなければならない自分の立場上、無論、どうしても強くは言えないと思っていた。
こんなにもあっさりOKが出るとは、と芽依は拍子抜けしてしまっている。
「じゃないと駒井の家とかに乗り込みそうだし、お前」
「まあ、軽く脅しに行って暴れるよね、、」
「やめなさいそういうこと言うの」
今度は優しく頭を撫でられ、芽依はデレっと笑って鷹夜の腰に腕を回した。
ソファの前、ラグの上に座った2人は、ゆったりと過ごしながら寄り添っている。
心地の良い温度を感じ合っていた。
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