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【第2部 ローブと剣】第12話

    * 「エミネイター師から、レムニスケートの書庫にある古い資料を閲覧したいといわれています。出してよいですね?」  クレーレはいまや毎日のように行われている諮問会議のあとに王の顧問役である父をつかまえていた。  父とは職務で話すときは敬語で、加えて余計なことは喋らない。緊張があるわけではなく、レムニスケートはもともとそういう家なのだ。クレーレは父のことを当主としても父親としても尊敬していたし、自分をよく教育してくれたと感謝してもいた。たまに実家で食事をするときは気楽な会話をする場合もある。親子というのが他でどうあろうとも、レムニスケートにとって当主とはそういう存在だった。  さらに自分から何かを要求したり訊きたいことがある場合、過程は省略して単刀直入に切りこんだ方がいいのだった。これもクレーレはまさしく当の本人から学んでいた。ひさしぶりに会ったとしても、おたがいに挨拶もせず話を続ける。これもいつものことだ。 「なぜそう思う?」と父が問う。 「回路魔術は王城防備の要です。そしてレムニスケートは王城の基礎をすべて知っている。情報交換して協力しあうのは当然ではないですか」 「そう思うか」 「ちがいますか?」  レムニスケート当主は特段の表情も浮かべなかったが、出てきたばかりの部屋を顎でさした。 「座って話そう。扉を閉めてくれ」そういって自分はさっさと中に入る。 「お聞き及びと思いますが、回路魔術師を王宮に詰めさせるための交換条件です。エミネイター師から、レムニスケートが持っている資料の閲覧権限を求められています」  あらためて説明すると、父はうなずいて同意を示した。 「これについては今決まったところだ。アルティン殿下が前向きだからな。師団さえ同意すれば王宮で受け入れる。エミネイターの条件か。そうだな。当然でもあるな」  クレーレはたたみかけた。 「王宮で同意するなら、応じていいですね?」  すぐに肯定が返ってくると思ったのに、意外にも空白があった。父は腕を組み、何事か考えている様子だ。しばしの間のあと、ようやく応答があった。 「そうだな。王宮で同意したなら――それでもいいかもしれない」 「何か問題でも?」 「――慣習にすぎないが、回路魔術師団とレムニスケートは、長年、相互に情報を与えないことになっている。くりかえすが、これは慣習にすぎない。法ではない」 「どうしてそんな制限があるのです? しかもエミネイターは姓こそちがいますが、私の従姉です」 「慣習だといっただろう。それに問題は姓ではない。彼女が魔術師になったからだ」 「どういう意味です?」  口に出してからふと、クレーレは父の話した意味に気づいた。あらためて問う。 「それは回路魔術師の王宮での処遇と関係がありますか? どうして回路魔術はここでこんなに低く扱われているのです?」  レムニスケートの当主はクレーレを見上げて苦笑した。それは複雑な笑みで、自信のあらわれとも自嘲ともつかない。 「答えは簡単だよ。我々のせいだ。回路魔術の扱いが城で低いのは、レムニスケートが彼らを重要視しなかったからだ」  クレーレは反射的に問い返していた。 「なぜです?」 「強いていえば――回路魔術が剣を有名無実にしたせいだろう。それ以来、我々は別れた。もとは協働した間柄だったのだが」     *  腕の中にアーベルの温もりがある。クレーレは彼の耳元に唇をよせて軽く噛み、舌でなぶる。ぶるっと震える体を逃がさないようにシャツの内側に手をいれ、背中から胸へ指をはわせる。  自分の愛撫にはっと息をのむ声も愛らしく感じる。すでに固く尖った突起を指先でいじりながら、クレーレはアーベルの肩口から喉へ、さらに下へと唇をおしつける。 「あっ……」アーベルはまた小さくうめく。 「おい……みえるところに跡をつけるな」  そんなことをいわれると、ますますつけたくなる。アーベルを裸に剝きながら手のひらと舌で愛撫しつづけると、ついにアーベルの手がクレーレの襟をつかんだ。 「おまえも脱げよ……ずるいだろ……俺ばかり……」  「ダメだ。――みせてくれ」 「――っあ……何をいってる…」 「アーベルが感じているところがみたい」 「なんだよこの……」  抵抗する口をキスでふさぎながらアーベルの下肢に手をのばす。すでにかたく立ちあがっているものに下着の上から触れると彼の半身がはねるように動いた。クレーレ自身も張りつめて痛いほどで、前をあけるとたがいに下着のまま擦りあわせる。動いて唇がずれるたび、アーベルから吐息まじりの声がもれ、それを聞いてますます興奮が高まる。  

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