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【第2部 ローブと剣】第13話
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「約百二十年前、回路魔術が生まれた」と父がいう。
「そのころレムニスケートは武人の集団だった。回路魔術はもともと城を守る過程で発明されたものだ。だから我々は創始者である魔術師と協力している。このことは記録にきちんと残されていないが、当時も今も精霊魔術師は戦場にいかせるには貴重すぎたし、そもそも連中は戦いに向いていないから、大きな意味があった。魔術師が直接の武装に関われるわけだからな。その魔術師――ナッシュは四代前のレムニスケート当主と懇意だったらしい」
「それがどうして今のようになったのです?」
「先の戦争で事態が変わった」と父は続けた。
「創始者の息子ゼルテンが回路魔術のみで防御の仕組みを作ったのがそのころだ。彼は当代の王に直接かけあって彼らの師団を結成した。戦後、防御の魔術はうまく機能したが、レムニスケートと回路魔術が離れたのはそのころだ。武装のありかたをめぐって師団と我々の間に対立がうまれ、時間が経つうちに反目が強くなって、交流をやめた。情報のやりとりが禁じられたのもそのころだ。これには騎士団も関係している。剣の重要性、つまり騎士団の威光が、回路魔術のおかげでなくなってはならないという彼らの思惑もあったのだろう」
クレーレは黙って先を促した。厄介なつながりであり、反目であると感じるが、口は挟まない。いまさら何をいっても、もはや歴史となっていることだ。
「そのまま我々は交流をもたないようになり、回路魔術と師団をある種の道具として扱うことにした。だがあちらはあちらでその立場に甘んじたので問題は起きなかった。彼らの中で分裂があったためらしいが。創始者の係累が抜けた影響だろう」
「抜けたとは?」
「ゼルテンは、当代の王が功績に応じて騎士と同等の階位を与えようとしたのを断ってこの国を出たのだ。理由は我々にはわからない。ずっと後になって彼の子供たちが王都に戻ったらしいが、師団に入っていない。それがおまえが親しくしている回路魔術師――アーベルの父と、その兄だ」
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「クレーレ…あっ……ここはイヤだ――ああっ」
アーベルは拒絶するが、その響きは甘い。クレーレはかまわずに組み敷いたまま嬲りつづけ、彼を味わう。むきだしにした胸から脇腹にかけてつけた跡が点々と赤くなり、いやらしく誘うようだ。アーベルは片腕で目を覆う。
「頼むから――寝室に――」
やっと懇願をききいれて、彼をかかえるようにして立ち上がらせた。腰を抱いて寝室へつれていき、敷布に横たえて覆いかぶさりながら自分の服も脱ぐ。
裸の肌が接して、アーベルの手が背中にまわる。張りつめた屹立同士が触れあい、快感におもわずうめき声がもれる。
「……そこに……あるから……」
アーベルが吐息まじりに潤滑油の容器に手を伸ばそうとするのをクレーレは押しとどめた。自分でとって栓を抜き、手のひらに落とす。そしてアーベルの両腿をかかえると潤滑油を前から後ろへ垂らして、指で繊細な穴をさぐった。
「ああっ」アーベルが痛みとも快楽ともつかない声でうめく。
クレーレは屹立同士を触れ合わせながら、後ろをさぐりつづけた。たがいの先走りの液が垂れて潤滑油と混ざりあい、アーベルの後口が指を飲みこんでいく。クレーレは指をさらにふやして奥へ進ませ、快感の中心をみつけだす。
「クレーレ――あ……あっ――」
大きく腰をゆすり、アーベルが達する。
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