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【第3部 荒野に降る】第6話

 ピチャ、と濡れた音がなる。  強く、南の花の香りが立つ。  まだ日があるというのに、俺はついに裸に剥かれている。よりにもよって近衛宿舎のクレーレの私室で――こんなことでいいのか、騎士団はただれていると俺は思うが、自分も同罪なのでうしろめたい気分だ。  長椅子にうつぶせにさせられた俺の腰に、クレーレがとろりとした蜜のような液体を垂らす。かすかに温かく、軽い、はじけるような刺激がきて、俺は思わずうめきをもらす。  首のうしろに吐息があたり、クレーレが笑ったような気がする。 「おまえ、へんなもの……使って――」  むずむずした感触に腰が勝手に動こうとする。クレーレは俺の尻を押さえ、のしかかって耳元でささやく。 「同僚に勧められたんだ」 「まったく、騎士団の連中はろくなのがい……あっ……」  尻を割られ、蜜が奥に塗りこめられた。内側ではじけるような感触に腰がはねる。クレーレの指が俺の下肢をはいまわり、撫でさする。たちまち全身が熱くなるが、中も外も軽い刺激だけが与えられて、くすぐったいのとも違うもどかしさだ。触られてもいないのに前がたちあがる。クレーレの指が先端を一瞬かすめ「濡れてる」と耳朶につぶやく。 「はっ……あ……おまえのせいだろうが……」  意識せず尻をつきだした姿勢になっているのが恥ずかしく、せめてあおむけになりたいのだが、押さえつけるクレーレの力が圧倒的で動けない。 「もっと濡らしたい」と肩口に声がひびく。うしろに堅くなったクレーレ自身が当たり、ぬるりとすべる感触に快感の震えがはしった。耳に舌をさしこまれ、耳朶を舐められ、首筋を強く吸われ、背骨にそって舌がおりていく。  一方的にされているばかりなのは腹がたつ。 「…おまえ……これから忙しいんだろう。こんなときに油を売ってていいのかよ」  うつぶせのままつぶやくと「だからさ。しばらく抱けないかもしれないだろう…」とクレーレはのうのうという。 「だからって――はっ……ああ」  いきなり竿をやわらかく掴まれ、反射的にあがった声をあわててかみ殺した。だがクレーレは意地悪く、ゆるく手を動かしながら「声をきかせてくれ」と命じる。 「いやだ、外にきこえたらどうす―――あ……ああっ」 「大丈夫、この部屋は聞こえないさ――アーベルが前にいっていた、特権のおかげだ」 「これだから貴族ってのは―――つっ」 「アーベルの声がききたい」  腰と胸を抱かれ、あっさりあおむけにひっくり返された。こうなってはもはや広くもない長椅子のうえで、投げ出された俺の足の間にクレーレがいて、太腿から左右の袋を舐めてくる。だがほんとうに触ってほしいところには触れず、俺は鈴口からだらだらとしずくをこぼすばかりでなすすべもない。両足をもちあげられ、さらけ出された穴にするりと長い指が入る。  塗りこめられた蜜のせいか痛みもなく、俺の内側はよろこんでいるかのように収縮する。何度も体を重ねて、俺はずいぶんクレーレに慣らされてしまった。ずぶずぶと内壁をまさぐられながら喘ぎをもらす。涙が目尻からこぼれる。一本だった指が二本、三本とふえていく。そして俺の快楽の中心を正確にさぐりあて、ひっかく。  俺は衝撃で背をそらしながら高い声を放ち、同時に射精した。 「アーベル――すてきだ。きれいだ……」  ふざけるな、と思うが、言葉にならなかった。射精の快感でぼうっとしているあいだもクレーレの指は俺の内側をうごめき、屹立が俺の腹をこする。もっと奥に、もっと強く責められたいと自分の腰が誘うのが腹立たしい。クレーレと……こんなふうになるまで知らなかったが、俺はこうやって責められるのが好きなのだ。羞恥まじりの快楽で俺の中がゆらぐ。  クレーレは花の香りがする蜜をまた指のあいだから垂らし、それは俺の内壁をつたってぷつぷつと弾けた。 「ああ……あっ……クレーレ…お願いだ、中に……」 「まだだ……我慢しろ」  今日のクレーレは抑制がきいていて、俺が哀願しても応じず、ねちっこい愛撫をくりかえしていた。まるでなにかのスイッチでも入れてしまったかのように、俺を喘がせて、楽しんでいる。俺の体はより快楽を感じてしまっているようで、すこし怖かった。 「クレーレ……は……っ……頼む……」  何度目かの懇願のあとでやっとクレーレは俺の腰をかかえ、屹立をあてがう。最初のせまい道を通るとき、きつい痛みと熱さに自然に腰が引きそうになるのを、つよい腕で支えられ、つなげられる。何回体を重ねても最初の衝撃は大きく、めりこんでくる太さが苦しい。俺は息を吐き、力を抜こうとする。俺の中に侵入しながらクレーレはそっと唇をあわせ、歯の内側をそろりと愛撫する。そうしながら根元まで楔を埋めこむと、馴染むまでクレーレは動かずに、ただ俺の口の中を犯して、離す。 「アーベル――御前試合だが…」  そのまま顔のすぐ上で喋るので、俺は信じられずに目を見張った。 「なんだよおまえ……いま、この状態でその話をするか……?」  クレーレは逆に目を細め、ゆるく腰を動かしはじめる。 「なあ……優勝したら、褒美をくれるか?」 「あっ……何いってるんだ……そんなの――」  蜜にまみれた内壁がクレーレの動きとともにこすれ、快感に俺の背中があわだった。 「そんな……褒美なんて……おまえのアルティン殿下がくれるんだろう」 「それじゃだめだ。アーベルがくれるのでないと……」 「なにをいっ……あっ……ああっ……」  快感の中心を堅い屹立で突かれる。  俺は涙目だった。さっき一度達したのに俺自身はまた堅く立ち上がっている。こっちは何も考えられないのだ。 「なあ、何をくれる?」 「なんでも――頼むから……あっ」 「なんでもくれるって?」  深く突いたと思うと浅いところで抜き差しして翻弄する。俺は喘いでいるだけでやっとだ。 「この馬鹿――こんなときに聞くなんて、卑怯もいいとこ――」  唇を噛みながら文句をいおうとしたが、指でこじあけられ、吐息が寄ってきた。 「だめか? 俺が勝ったら――」  小さな口づけが顎や頬におとされ、クレーレの眸が俺をみている。 「――俺の望みをかなえてくれ」  俺はもう限界だった。 「――なんでもしてやるよ。なんでも……ああっ……」  喘ぎながらうなずき、クレーレと眸をあわせる。 「お願いだ――もっと――」  強く、という言葉は急激な突き上げで飲みこまれた。 「アーベル、おまえの望みは?」  喘ぎながら泣きつづける俺にクレーレがさらになにかいう。それなのに俺には言葉をききとる余裕がない。ただ今このときだけは、俺は確実に生きているのだと感じている。耳の奥で心臓の鼓動が鳴り響き、俺とクレーレの境目がぼやけていく気がする。俺はクレーレの背中に腕を回し、今にも爆発しそうな俺自身をこすりつける。 「いっしょに――行かせてくれ……」

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