3 / 31
日曜日 その3
夢を見ている。子供の時の景色だ。
レオのお父さんに連れられてシノブは一度スタジオに行った。その日はなんだか興奮して、眠れなかった事を覚えている。
その日の夢だ。初めてのスタジオ見学で見るもの全てが珍しかった。タバコとコーヒーの匂いのするスタジオで、大人たちが真剣な顔で演奏している。レオとスタジオの端に座って、レオの父親が演奏する姿を見ている。器用に動くギターの弦の上の指が印象に残っていた。シノブの横に座ったレオが、何かを耳打ちしてきた。
「シノブ、お前にいつか歌を作って聞かせてやる」
レオはそう言ってシノブの前でギターを弾く真似をして戯けて見せた。歌っているふりをして、すっかりロックスター気取りのレオを見て、シノブはカッコイイと思った事を思い出した。レオは一通り戯けて見せた後、右のポケットからガムを取り出しシノブに渡した。そのガムを受け取り口に放り込む。コーヒーの味のガムだった。大人の世界を覗いた気がした1日だった。
そこで目が覚めた。
懐かしい夢だった。あの時は本当に同じ歳とは思えないくらいレオは大人びていると思っていた。
時計を見ると、まだ朝の四時半だ。もう少し寝れる。
その時リビングで音がした。恐らくレオがトイレにでも立ったのだろう。耳を澄まして動向を伺った。シノブの寝室の引き戸は開けたままにしている。暫くの静寂の後シノブの寝室の入り口に人影がした。部屋は真っ暗なままだ。
ドサッ
レオがシノブのベッドに倒れ込んできた。シノブはレオの体重に押し潰されそうになったが、寸前のところで避けた。
「シノブ・・・」
一言だけ言って、そのままレオは寝息を立てた。
シノブはびっくりしたまま固まった。でも久しぶりに会ったレオの子供っぽいこういう所が懐かしくて、そのまま寝かす事にした。そして朝の冷気で風邪をひかないよう毛布をかけてあげるのだった。
ともだちにシェアしよう!