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月曜日 未明
吉木譲治(26歳)職業 声優。
代表作多々。若手声優の中でも人気があり、出演するイベントは毎回、5分でチケットがソールドアウト。業界屈指のモテ男で恋の噂は途絶えない。人気作も多数。今大注目の若手声優。
それが俺、本名)清水芳樹だ。
生まれてこの方、ちやほやされて育った。
正直、お金に困ったこともない。
生まれ持っての、この声が商品になるとわかってからは、多少勉強はしたが、はっきりいって、他の奴らより恵まれている。男にも女にも、モテてきた。実際に付き合ったのは女の方が多いが、別に男でも俺のそれは機能する。だが、ちょっと困ったことになった。
日曜の夜に呼び出されてのこのことやってきたが、まさかこんなことになるとは・・・。
「芳樹くん、お願いだから、嫌いにならないで・・・」
目の前で明石が泣いている。
「ほんとに、僕、君のことが好きなんだ・・・」
なんでこんなことになったんだろう?俺は、この前言っていた新しいイベントの打ち合わせのつもりで来たのに・・・。
「お願いだから嫌わないで・・・」
目の前の明石は酒に酔ったのか、涙をぼろぼろこぼしながら泣いている。
「あの・・・明石先生、僕、偏見とかはないですから・・・」
「え?ほんと??男同士で・・・って気持ち悪くない?」
そう言いながら、明石は芳樹にどんどん近づいてくる。
「先生・・ちょっと落ち着きましょう・・・」
「落ち着けないよ・・・。こんな姿見せちゃって・・・ほんとごめん・・・」
「先生、わかりましたから。ちょっと落ち着いて。さあさあ、ね。こっちに来て。」
明石の腕を掴む。その瞬間、ぐずぐずと泣いている明石が、我に返る。服の袖で涙を拭う。
「ほんとごめん。なんか取り乱しちゃって」
「いや、先生、俺は大丈夫ですけど・・・」
「芳樹君、僕は本気だから。男の俺に言われて気持ち悪いかも
しれないけど・・・。でも・・・だから、仕事ももちろん頑張るし、
君のためならなんでも出来るから。 だから、一度真剣に僕のこと考えて・・・」
「いや・・・そう言われても・・・突然のことすぎて・・・」
「うん。わかってる。今日、こんな話をするつもりは無かったんだ。でもなんでかな・・・ごめんね。答えは今欲しくない。今すぐ答えは出さないで。お願い・・・」
そこまで言われてしまっては、何も言えない。
「先生、とりあえず僕帰ります。また、イベントの話は改めて」
「うん。そうだね。ごめんねほんと・・・」
そう言って明石の部屋を後にした。
帰りのタクシーで芳樹は考えた。明石先生俺のこと好きだったなんて。俺にとっては、仲のいいボイストレーナーだったから、そんな目で見たことなかったけど、色々助けてくれてたのは本当だもんな。いつだったか、睡眠が全然取れなくて、忙しすぎて、声が枯れそうになった時がある。
その時も、僕の仕事のスケジュールを調整するように事務所に言ってくれたり、喉にいいっていうレモンの蜂蜜漬け作ってスタジオに持ってきてくれたりしたもんな。
確かに、俺のこと好きだって言われれば、そんな行動だよな・・・。
俺、何がしたいんだろ・・・?
「わかんねー・・・・」
ぽつりと呟いた。
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