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月曜日 昼
毎週月曜の昼1時から、MG事務所ではミーティングがある。今回は新しい作品のオーディションの詳細打ち合わせと、それに伴うイベントの打ち合わせが議題に上がっていた。
「吉木くん、今度の作品の主役は君に決まるから、気合を入れておくように」
事務所のディレクター、田中さんが喝を入れてくる。
「はい。頑張ります」
「そこでなんだが、この作品は吉木君とそのほか主要キャスト二人以外は
全て新人を起用してみようと思う。チャレンジ的な試みではあるが、
それでやってみよう。幸い、制作時間は長めにとってあるからな」
「キャストのオーディションは、今度の金曜の昼12時から。もう何人かは
新人に声かけてあるが、明石先生に頼んで、現役の学生にも声をかけてもらう」
スタッフの一人が概要が書かれた紙が配られる。
「吉木、この前の打ち上げで行った店のアルバイトの子、シノブ君もオーディションに声かけてあるからな」
田中が吉木に声を掛ける。
「あ、はい。明石先生から伺っています」
「今日は明石先生は欠席しているが、この度、明石先生がイベント会社を立ち上げることになった。そこで、この作品のプロモーションに関するイベントを明石先生にお願いすることになっている。だから、また追って打ち合わせの日時は知らせるが、みんなよろしく頼んだぞ」
「はい。よろしくお願いします」
会議に参加したスタッフが一斉に声に出した。
新しい作品は、アニメーションだが、ミステリーモノになっている。主人公である探偵の声を吉木が務める。その他の主要キャストはその探偵のボスと、刑事役だ。その他の、探偵の妻の役、探偵にふとしたアドバイスをくれる近所の青年役。そして、毎回犯人役は大物ゲストが起用される流れだ。
今回の新人起用枠は、この探偵の妻役と、探偵の近所の青年役、そして、青年の同級生が一番の役回りだろう。その他に十人ほどの役があるが、出番が多いのはこの三役だ。田中が言っていた、かわいい声の役とは、この近所の青年役の事なのだ。
シノブ君、頑張ってこの役とってほしいなあ・・・
そんなことを芳樹は考えていた。
スタジオで声入れの仕事をこなした後、芳樹はシノブにラインをした。
”シノブ君、元気?今事務所に来てて、新しいオーディションの話が出ててね、君にハマりそうな役がわかったよ。一般公募の人にはまだ内緒なんだけど、田中さんも君のこと気にかけてたから先に教えておくね。
君が狙う役は、探偵モノの、その探偵にふとしたアドバイスをくれる青年の役。この役が中性的だから、かわいい声がいいらしいよ。当日どんなセリフが渡されるかはわからないけど、なんとなく、イメージだけしておいてね。オーディションは今度の金曜の昼12時からだって。
シノブ君の時間はまた、事務所から連絡がいくだろうけど、金曜、頑張ってね。
俺ももちろんオーディション会場にはいるから。応援してるよ”
すぐに既読マークがつく。
”吉木さん、わざわざありがとうございます。はい。今事務所からも連絡がありました。僕は金曜の夕方4時にとのことでした。頑張ります。”
そのラインを見て芳樹は、”グッジョブ”のマークのスタンプを送った。
すぐに
”よろしくお願いします”
とキャラが言っているスタンプが送られてきた。
「は〜あ〜。俺、もうすっかり吉木さんじゃん。ちょっかい出すの面白かったけど、もうだめだな」
そう呟きながら、バーBitterに向かった。
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