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月曜日 夜その3
「霧島、お前って、いいやつなんだかよくわからないな・・・」
霧島に向かってマスターが囁いた。Bitterではまだ霧島と明石がカウンターで飲んでいる。
明石はすっかり寝てしまっている。
「すまないな。バーで寝るなんて、ルール違反だな」
「いや、もういいさ。今日は他のお客も帰ったことだし、アルバイトももうキッチンの圭吾しかいないしな」
「ああ、お前の甥っ子だったな」
「ああ、身内だからな。まあ、いいさ」
「明石はな・・・今会社を立ち上げるっていう決意をして、必死なんだよ。そんな時には味方が欲しいと思うだろ。しかも、恋までしちまってる。もうどうしたもんだか・・・」
「なるほどね。それで明石さんの好きな相手ってのが、さっきの吉木君」
「そうみたいだな。明石もシノブと一緒で、自分の性的嗜好に気がつくのが遅いやつだったからな。俺に一時期恋してると錯覚してたみたいだが、それは憧れにしかすぎないって話をよくしたもんだよ」
「お前はほんと、面倒見がいいというか・・・難儀なやつだな」
「そうか?俺の心はいつも一人にしか向いていないがな・・・」
そう霧島は言うと、クレジットカードを出した。マスターは裏にいる圭吾にタクシーを一台捕まえてくるように言うと、そのカードを手に取った。会計をしている。カードのサインをしてもらうためにペンを渡すと、そのペンでマスターの手に何かを書いた。
”Still Love you”
(まだお前を愛してる)
そのメッセージを見て霧島に顔を近づける。
霧島は目を瞑った。
マスターの唇が霧島の唇に触れた。
タクシーを捕まえて圭吾は店に戻る。霧島が明石を起こしているところだった。
「おい、明石!起きろ!帰るぞ!!」
そう言って体を揺さぶる。
「はいお水を一杯飲んでください。明石さん」
マスターがグラスいっぱいの水を差し出す。それを飲んだ明石の目は赤い。
「ほら、いくぞ!」
そう言って、タクシーに乗せると、タクシーは夜の街に消えていった。
「圭吾、悪かったな。寒かっただろ?」
「いえ、叔父さん、大丈夫です。今日はもう閉めますか?」
時間は朝四時だ。正式な営業時間は朝5時なので、あと1時間ある。
「ああ、そうだな、今日はもう閉めよう」
そういうと表の明かりを消し、閉店作業にかかった。
「圭吾、この前シノブ君を送って行ったとき、シノブのことを迎えにきた男の子は、どんな奴だったんだ?」
「え?おじさん珍しいじゃない。そんなこと聞くの」
「いや、霧島の元生徒だからな。ちょっと気になってな」
「う〜ん。俺はいい人だなって思ったけど?」
「そうか。シノブ君のこと、大事にしてくれそうな奴か?」
「そうだと思うよ。まだ片想いだって言ってたけど、あのシノブ君の様子だと、絶対好きだね。断言できる」
「そうか・・・。なら良かったな」
「俺、ゲイとかバイとか、正直どうでもいいって思ってる人間だけど、どうせなら皆幸せになってほしいから」
「圭吾、お前、変わってるな・・・」
「え?そう?俺、結構心広いと思うけど?叔父さんも素直になったら?」
「ふふふ。お前は知ったような口を叩くな。たまにグサリと刺さるぞ」
「刺さるのは、僕が言ったからじゃないと思うけど・・・?」
「そうだな・・・お前が一番素直で正しいかもしれないな・・・」
「じゃあ、おじさん、お疲れ様。また明日」
「ああ、お疲れ。圭吾気をつけて帰れよ」
圭吾は明け方の街を自転車で帰っていった。
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