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火曜日 その2
その店は何度も来ていた。
スタジオの近くの涼風亭。スタジオのメンバーの打ち上げといえば、この店だ。19時を少し回っている。店内をぐるりと見回した。
「おい!レオ!」
奥から親父の声がする。顔を上げると、レオの父親が手をあげていた。レオは父親の席に行く。
「おーきたか!レオ、元気か?」
スタジオの音響スタッフの前田さんが声を掛ける。
「はい。元気です」
「まあ、こっちに座れ」
そう言って父親と前田の隣に座らせた。
「レオは、初めて会うよな。GreenEyesのメンバーの、翔とジャンとコウ。
右から、GtとVoで,Bass,Drだな。で、こっちがコーラス全部入れてくれたレオ君だ」
「初めましてえ!!コーラスありがとうございました!
おかげでいい感じになりました!レオさんの声マジやばかったっす!」
メンバーの翔が威勢よく声を掛ける。
「あ、ありがとうございます」
「レオさんって、嵐さんの息子さんなんですよね?」
「そうそう。俺の息子!こいつはうちの三男坊で、唯一音楽センスあるやつ!」
レオの父親の嵐が言う。
「そういえば、嵐さんのとこ三人息子でしたよね?」
前田が聞く。
「そうだよー。俺んとこの長男と次男は、音楽ってより、勉強とスポーツって感じだな。
長男はもう26歳だから、就職しててお堅い仕事してるし、次男坊は24歳だっけ?あいつはアメフトの実業団チームに入ってアメフト三昧。一応就職して自立してくれてるから、俺的には楽になったけどね。残るはこいつ、レオだけだな」
「レオ君は、音楽の道で食っていくの?」
前田が尋ねた。
「えっと・・・まだ決めあぐねてるっていうか・・・」
「勿体ない!レオ君いい声してるし、耳もいいんだから、こっち側においでよ」
「おいおい!前田。そんなこと軽く言ったら、こいつ本気にするだろー」
すかさず嵐が牽制する。
「レオさんは、楽器は弾かないんですか?」
バンドメンバーのコウが聞いてきた。
「えっと、一応、ギターは触ります」
「あーダメダメ。ギターは俺の方がうまいから」
また嵐が一言挟む。
「でもレオ君は声いいからね。歌も、普通にレッスン受けてるやつよりうまいと思うよ。ピッチがいいし、伸びもいいから。マイク乗りも抜群。それは確かだな」
前田がフォローする。
「そんなこと初めて言われました」
レオが素直に前田に言う。
「レオ君、耳がいいんだろうねー。少しは宅録したりするんでしょ?だったら、そっちの勉強ももうちょっとして、うちのスタジオに来たらいいんだよ」
前田が続けていいう。
「おいおい。そして、親父は引退っていう構図じゃねーよなー・・・」
「嵐さん、それはないでしょ〜。嵐さんのギターはまだまだ現役ですから」
前田が優しく言った。
「それを聞けて安心するよ。はははは」
「GreenEyesさんは、これがデビューアルバムですか?」
「そうなんですよ。俺ら、それぞれがバラバラで音楽やってたんですけど、せっかくだったら一緒に何かやろうって話になって。翔は音大出てるんで、実はギターとピアノ弾けるんですよ。で、当時やってたのはジャズっていう・・」
コウが答える。
「そうそう。翔はジャズで、僕はブルース」
ジャンが言う。
「そして、コウはバリバリのロックって感じです」
それぞれが、それぞれの事を紹介する。
「だから、今回のアルバム、歌がメインって感じではなかったんですけど、どうせだったら、歌詞つけて、少しコーラスも入れようってことになって」
「そうそう、そこで、思い出したのが、レオ君だったんだよね」
前田が言う。
「だから、結構おしゃれなアルバムになったんだよね。現に、もうシングルカットする曲のタイアップついてるしね」
「え!!すごいですね!アルバム発売前に、タイアップついてるんですか?」
レオは驚いた。
「ありがたいことに、新しいアニメのエンディングテーマソングに決まったんだよ」
「すげー!!」
「その楽曲にもレオ君の声入ってるよ」
前田がいう。
「レオさん、もしよかったら、俺らのバンドのボーカルとかなりません?
ツインボーカルもありだなって言ってたんですよ。まあ、興味があればですけど・・・」
バンドの翔がそう言うと、他のメンバーも”うんうん”と頷く。
「おおっ?お前らマジで言ってるのか?」
すかさず嵐が口を出す。
「俺らは本気ですよ。でももちろんレオさんの希望が一番ですけど・・・。俺らは是非にとおもっています」
「レオ君も将来を考える時期だろうし、考えてみたら?実際相性良さそうだと思うし、
こいつらが言ってるのは本気だろうしな」
前田が言う。
「まあ、考えてみたらいいんじゃない?猶予は一ヶ月くらいね。それを過ぎると、こいつらのプロモーションも本格化するから」
嵐が言う。
「わかりました。真面目に考えます」
レオはそう言うと、父親の顔を見た。父親の嵐は、レオにウインクをしてみせた。
その後その打ち上げは、夜中の3時まで続いた。レオは、GreenEyesのメンバーと音楽談義に花を咲かし、メンバーの関係性もだいぶ知ることができた。
メンバーの翔は、音楽一家で育ち、音大ではジャズピアノを専攻していたこと。ベースのジャンはハーフで父親はアメリカ人。日本育ちの為、ネイティブに日本語を話せる。見た目は綺麗な緑の目をしたイケメンだ。バンドの名前も彼の目から来ていること。そして、ドラムのコウは、二人より少し年上で、元々ロックバンドでメジャーデビューしていた事。そのバンドが解散になったときに、たまたま、翔とセッションライブで知り合って、意気投合したこと。
レオには全てが刺激的な話だったこと。そして、ベースのジャンが同性愛者だといことも教えてくれた。
「こう言うことだけは先に言っておかないとね・・・」
そう言って、ジャンは教えてくれたのだ。
「僕、たまにモデルもしてたから、スキャンダルとかあると困るでしょ?だからね。気持ち悪いって思わない?」
ジャンがレオの横に来てレオを見る。
「えっと、俺は、あんまり気にならないです・・・。人は人ですから・・・」
そうレオは答えたが、少し顔は赤かったはずだ。
「そっか。よかった。あ!僕、彼氏いるから、そこら辺は大丈夫。メンバーも知ってるよ。僕の彼氏は、この人」
そう言って、スマホの写真ホルダーを見せてきた。
青い目のイケメンが写っている。
「彼が僕の恋人。モデルやってるんだ。今はイギリスにいるんだけどね。遠距離恋愛中」
「すごいイケメンですね・・・」
「でしょ?大好きなの。レオ君は恋人は?」
「えっと・・・恋人というか・・・好きな人はいます」
「えーー写真ないの?見たいなー」
「えっと・・・ないです」
「そっかー。片想い中?うまくいくといいねー。レオ君イケメンだから大丈夫そうだけど・・・」
「そうだといいんですが・・・どうもシノブは鈍感というか・・・隙だらけというか・・・」
「ええ!それって心配じゃない??」
「はい。もう心配すぎます」
「レオ君、頑張って!何かあったら、協力するし!って僕じゃあだめか・・ははは」
「いえ、ジャンさんに連絡するかもです・・・」
その様子を見たジャンは、”はは〜ん”という顔をした。
「僕でよかったら、いつでも。連絡先交換しとこ!」
その様子を横で見ていた翔も、すかさずスマホを取り出す。
「俺も交換する!レオ君バンドに入って貰わないとだからね!」
そんな流れで、GreenEyesのメンバーと連絡先の交換をしたのだった。
そして、自分の運命が動き出したのではないかと、密かにワクワクしているのであった。
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