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金曜日 その1

『オーディション会場は4階です』 MG事務所の一階にはその案内が出ている。シノブは、その案内の通りに4階に向かった。そこには数人のオーディションを受けた若い人がいた。受付で、名前と宣伝写真やエントリーシートを渡し、その日に読む台本を渡された。 「この中のこの緑の線の部分を吉田さんには読んでいただきます。  お呼びしますので、それまでこちらでお待ちください」 受付のスタッフにそう言われた。 台本に目を通しながら椅子に座って呼ばれるのを待った。10分くらいした頃、さっきの受付のスタッフに呼ばれた。 「失礼します」 スタジオの重いドアを開けて入る。そこには明石先生、吉木譲治、アニメの原作者、ディレクターの田中さん、そして、霧島先生もいた。 「やあ、シノブ君。元気?吉木が声をかけてきた」 「はいご無沙汰しております。元気です。今日はよろしくお願いします」 そう言って一礼した。 「シノブ君は。僕がスカウトした子だから、この役って言うのがもうあるんだよ。 さっき一話目の台本もらったよね。それの緑の線の役、主人公にさりげなくヒントを与える青年の役だよ。今日はそのセリフを本番さながら、主人公役の吉木君と読んでもらう。第一話目の犯人役のゲスト声優が、霧島さんだから、三人の絡みもちょっと探れたらいいかと思ってね。あまり緊張せずによろしくね」 オーディション会場とはいえ、すぐにレコーディングができるスタジオだ。マイクも3本立っている。ヘッドホンを渡され、マイクの前に立つように促される。 「音は聞こえるかい?何か少し話してみてくれ」 明石先生から指示が出る。 吉木と霧島もマイクの前に立つ。 「今日は絵に合わせてではないから、自分のペースで初めてくれたらいいよ。シノブ君きっかけだから」 ディレクターの田中から指示が出る。シノブは、よろしくお願いします、ともう一度言ってマイクの前で深呼吸をした。 「ひょっとして・・・いや、まさか。」 シノブが話し出す。 「良一君?何か考えがあるのかい?」 吉木が答える。 「あの時のあの人の行動を考えれば、おかしいと思いませんか?先生」 セリフを続ける。 「君が言っているのは、僕のことかい?」 霧島が続ける。 「ま、まさか、あなたがやっぱり犯人なんですね」 吉木が続ける。 「すまない良一君。彼が言う通り、俺が犯人なんだよ。理由は聞かないでくれ」 「そんな・・・だってあなたは僕を助けてくれたじゃないですか!」 「ああ、そうだ。あれは魔がさしたんだよ。君の純粋な瞳にね」 「良一君、彼から離れて!離れるんだ!」 「君との出会いは思いがけず、僕の心を動かしたんだよ。もっと早くにあっていれば・・・」 「そんな・・・」 「良一君、こっちに来い!!お前は俺のパートナーだろ!!」 「先生・・・俺がパートナー・・・」 「ああ、そうだ!君の洞察力が僕には必要なんだ!!」 ここでセリフは終わっている。 拍手が沸いた。 「いや〜やっぱりシノブ君がいいと思うんですがね・・・原作者の南田先生、どう思われますか?」 「はい。いいと思いますよ。中世的なキャラなので、彼の声があっているかと・・・」 原作者の南田からもOKが出た。 田中が続けて言う。 「吉木さん、霧島さん、どうでしたか?」 「僕はいいと思いますよ」 霧島が言う。 「俺もシノブ君ならやりやすいし、今日聞いた中で、一番中性的でキャラに合ってると思います。ピュアキャラですから」 吉木も後押ししてくれていた。 「そうだね。今日のオーディションでは彼が一番あっていると思うし、シノブ君で決まりでいいんじゃないかな」 明石もそう言ってくれた。 「では一応、監督と話をしますが、仮で、シノブ君と言うことで」 田中が、仕切ってそう言った。 「シノブ君、まだ本決まりではないが、ここのメンバーは君でいこうと言うことになったから、しっかり練習しておいてくれよ。最終発表は日曜にホームページで発表するから」 「はい!!ありがとうございます。もし、僕を採用していただけたら、一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします!!」 シノブは一礼して、その部屋をでた。 受付に戻って、名札を返却した。その日のオーディションはシノブが最後だったようで、さっきの部屋からゾロゾロと面々が出てきた。 「シノブ君。今からは時間空いてないの?霧島さんとバーBitterに行こうかって言う話になってるんだけど・・・シノブ君は今日はバイトだったっけ?」 吉木が声をかけてきた。 「えっと、今日はバイトは休みなんですが、友達のセッションライブに顔を出す予定で」 「なんだ、そうなの?まあ、俺と、霧島さんはどっちにしろBitterに行くから、よかったら後でおいでよ。今日のオーデイションの打ち上げってことでさ」 「はい、わかりました。何時になるかはっきりいえないですが、ライブが終わったら、一度吉木さんにラインします」 「OkOk!!気負わなくていいから。まあ、タイミング合えばって感じで」 「すみません」 そんな会話をしていたら、霧島が後ろから現れた。 「シノブ君はちょっと用事があるみたいで、後で参加です〜」 すっかり後で行かねばならない状況になっている。でも今日のは行った方がいいだろうなと思ってはいるのでとりあえず霧島にも 「霧島先生、ちょっと遅くなりますが、後ほど伺います」 と会釈をした。 「ああ。無理はするなよ。シノブ君」 「はい」 と答えて、事務所を後にした。

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