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第一章・2
インターホンは付いているのに、そこから声は聞こえてこなかった。
はーい、と明るい声が屋内から響き、すぐに背の高い、体格のいい男が現れた。
短く刈られた黒いくせ毛が、どこかヤンチャな雰囲気を醸している。
半袖からのぞく腕は太く、芸術家というよりアスリートのようだ。
そして、髪と同じく黒い目は、馬のように穏やかだった。
「こんにちは。宮崎です」
「僕は、関 研悟(せき けんご)といいます。よろしく」
それは、素敵な笑顔だった。
「お待ちしてましたよ、どうぞ」
研悟はドアを大きく開け放つと、二人を中へ受け入れた。
二人分のスリッパを出し、研悟は彩人に人懐っこい笑顔で話しかけた。
「君が、彩人くん?」
「……」
無表情で、黙ってうなずく彩人だ。
そんな息子の仕草に、心路はすまなさそうな声で話した。
「すみません。小さい頃から、こんな風で。滅多に感情を表に出さずに、お喋りもしなくて」
「子どもには、よくあることですよ」
二人をリビングへ通した研悟は、名刺を心路に差し出した。
『絵画教室・アトリエくれよん』
心路は、彩人をこの絵画教室へ通わせたいと思って、連れて来たのだ。
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