3 / 70

第一章・3

 この方ならば大丈夫、と警戒を解いた心路は、彩人について研悟に語った。  小さな時から、感情が乏しいこと。  友達も、いないこと。  何か夢中になれることができれば、と思い、この絵画教室に連れてきたこと。 「絵を描くことが彩人くんのためになるなら、こんなに嬉しいことはありませんよ」  アトリエを見てみますか、と研悟は二人を別室へ案内した。  そこは天井の高いスッキリとした、広々とした部屋だった。  そして、様々な年齢層、個性に応じた画材やオブジェが置かれていた。  学校で使うような小さな机から、本格的なイーゼル。  果物や花などから、複雑な石膏像。 「今日はお休みの日なので、誰もいませんが。老若男女問わず、いろんな人が絵を描きにきます」  そして研悟は、彩人に新しいスケッチブックを渡した。 「何か、絵を描いてみるかい?」 「……」  彩人は首を横に振り、傍に置いてあった絵具をいじり始めた。 「彩人、やめなさい」 「いいんですよ、宮崎さん」  しばらく様子を見ましょう、と研悟はスケッチブックを開いて机の上へ置き、彩人から離れた。

ともだちにシェアしよう!