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第一章・3
この方ならば大丈夫、と警戒を解いた心路は、彩人について研悟に語った。
小さな時から、感情が乏しいこと。
友達も、いないこと。
何か夢中になれることができれば、と思い、この絵画教室に連れてきたこと。
「絵を描くことが彩人くんのためになるなら、こんなに嬉しいことはありませんよ」
アトリエを見てみますか、と研悟は二人を別室へ案内した。
そこは天井の高いスッキリとした、広々とした部屋だった。
そして、様々な年齢層、個性に応じた画材やオブジェが置かれていた。
学校で使うような小さな机から、本格的なイーゼル。
果物や花などから、複雑な石膏像。
「今日はお休みの日なので、誰もいませんが。老若男女問わず、いろんな人が絵を描きにきます」
そして研悟は、彩人に新しいスケッチブックを渡した。
「何か、絵を描いてみるかい?」
「……」
彩人は首を横に振り、傍に置いてあった絵具をいじり始めた。
「彩人、やめなさい」
「いいんですよ、宮崎さん」
しばらく様子を見ましょう、と研悟はスケッチブックを開いて机の上へ置き、彩人から離れた。
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