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第一章・4

 彩人はパレットに絵具を少し出すと、それを指にすくった。  画用紙に色をなすりつけ、ぐるぐると塗りつぶして円を作った。  それを、箱の左端から右端までの絵具で、同じように続けた。  最後の色を使った後、初めて彩人は心路を見上げた。  そして、かすかではあるが微笑んだのだ。 「彩人くん、絵を描くことが気に入ってくれたみたいですね」 「でも、指で描くなんて。それに、ただの丸です」 「フィンガーペインティング、という技法もありますよ」  そして研悟は、彩人の絵を目を細めて眺めた。 「彩人くんの作品、第一号だ。よかったね」  乾くまでお茶にしましょう、と研悟は二人を応接室へいざなった。  彩人は自分の絵を気に入ったのか、離さず持って時々眺めていた。  コーヒーを飲みながら、心路と研悟は、今後について話した。 「では、彩人をこの教室に通わせてもいいでしょうか」 「どうぞ。宮崎さんはいかがですか? 親子で絵を描かれている方もいらっしゃいますが」 「そうしたいのですが、私は勤めがあるので。それに、お月謝を二人分はとても」 「月謝は彩人くんの分だけで構いませんよ。他の方も、そうしています」  お仕事がお休みの日に、気が向けばどうぞ。  そんな風に、研悟は言ってくれた。

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