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第一章・5

 彩人の絵が乾き、研悟はそれをシンプルな額に入れてくれた。 「ほうら、これで立派な作品だ」 「……」  彩人は相変わらず何も話さない。  だがその顔つきは、ここへ来てすぐの時より、ずいぶん明るくなっていた。  嬉しそうに額を受け取り、心路にしがみついた。 「すみません。額代を払います」 「結構ですよ。素敵な作品ですから、僕が額に収めたくなっただけです」  ありがとうございます、と心路は深く頭を下げ、彩人の手を取った。 「よかったね、彩人」  小さな画家の卵は、無言でこっくりうなずいた。    研悟宅をおいとまし、庭を通り、門まで来たところで二人は振り返った。  玄関のポーチには、まだ研悟が見送ってくれている。  手を振る彼に、彩人がそっと手を振り返した。 (彩人が、初対面の人に手を振るなんて!)  心路はそれだけでもう、明るい未来を予見した。  暗く沈んでいた胸に、光が射した心地がした。

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