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第一章・6
心路と彩人、二人を見送った後、研悟はパレットを洗いながら顔を赤らめていた。
「彩人くん、またここに来てくれるといいな。そして」
そして、宮崎さん。
ふう、と熱い溜息が出る。
「何てきれいな人なんだろう」
清潔な身なりをしてはいたが、その服は色あせていた。
決して裕福ではないのだろう。
Ω性の男性と見たが、パートナーはいるんだろうか?
何か訳ありの匂いはしたが、詮索するにはまだ早い。
「素敵な人と、縁ができたな」
α性の研悟は、もう30歳半ばになる。
両親を早くに亡くし、悲しさを振り切るために創作に没頭した。
おかげで作品に値が付くまでの画家に大成したが、孤独は埋まらなかった。
そこで始めたのが、一般向けの絵画教室だ。
絵を描き始めたばかりの小さな子から、美大志望の学生、ママ友のサークルに、引退した美術教師など、さまざまな人に門戸を開いた。
時にはおやつにクッキーを焼いて振舞ったりと、アットホームなアトリエだった。
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