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第二章・2

 ところが、大人が見ていると、彩人は絵を隠してしまう。 「彩人くんは、人に見られると描けなくなるみたいですね」 「すみません。自宅でも、こんな感じで……」  では、と研悟は心路を離れたソファへいざなった。 「僕たちは、ここでのんびりさせてもらいましょうか」  そして、心路にお茶を勧めた。  香り高い、コーヒー。  一口飲んで、心路は笑顔で息をついた。 「おいしい」 (こんな風に、ゆったりとした気持ちでコーヒーを飲むなんて久しぶり) 「お茶菓子もどうぞ。僕が焼いたクッキーです」 「ありがとうございます」  応接室はきれいに掃除が行き届いているし、コーヒーは研悟が目の前で淹れてくれた。  その上、彼手作りのクッキーだ。 「あの。関先生は、ご結婚は?」 「いえ、まだ。この年齢だと、もうパートナーを探すのもおっくうになってしまって」 「一人で、この家を切り盛りされてるんですか?」 「そうです。幸い、こういうことを苦に無くできるように、両親が育ててくれました」 「ご両親とは、同居されているんですか?」 「僕が若い頃に、亡くなりました」  それを聞いて、心路は非礼を詫びた。 「すみません。失礼なことを根掘り葉掘り」  いいんですよ、と研悟は変わらぬ笑顔だった。

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