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第三章・5

「あ、先生だけ絵を描いてる。ずるい」 「彩人くん、起きたのか」 「僕も、描く」  いいよ、と研悟は自分の絵を中断して、彩人の画材を整えた。 「……」  描き始めた彩人は、もくもくと指を動かす。  凄い集中力だ。  ちゃんとイーゼルを使い、絵具は水彩からアクリルに替えた。  紙も、アクリル絵の具に耐えられる専用のものを用意した。  彩人の心の中には、広い広い海が波を立てていた。  青い海、青い空、赤い貝殻に、白い雲。  楽しい。  楽しいな。  彩人は生まれて初めて、楽しい、ということを感じていた。  魚と泳ぐの、楽しいな。  貝殻拾うの、楽しいな。  パパとシャワーして、楽しいな。  お昼ご飯も、楽しいな。  そして。  絵を描くのって、楽しいな。 「できた」  そこには、きらめく海に魚や貝があしらわれた、楽し気な作品があった。

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