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第三章・7

 夜は、波の音を聴きながら星々を眺めた。  天体望遠鏡で月を彩人に見せながら、研悟は心路に謝っていた。 「こんなに遅くまで、すみません。明日の仕事は、大丈夫ですか?」 「明日は遅番なので、平気です」  大人の事情は放っておいて、彩人は望遠鏡で見る月面に夢中だ。 「すごい……、すごい」 「気に入ってくれたみたいですね、彩人くん」 「でも、まさか望遠鏡まで車に乗せてるなんて」 「絵を描くって、インドアでしょう。反動で、思いっきりアウトドアを楽しみたくなることがあるんですよ」  独りでですけどね、と研悟は照れるように言った。  そこで初めて、心路は思い当たった。  研悟の孤独を。 (慣れてるように見えるけど、それは全部独りで身につけてこられたんだ。関先生は)  心路は、精一杯の言葉をかけた。 「今日は、独りじゃありませんよ」  どこか遠いところを見ていたような研悟は、はっとして心路を見た。  そして、明るい笑顔を向けた。 「ありがとうございます」  月と星が、優しく二人を照らしていた。

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