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第四章・3
「また、モデルをしていただいても?」
「喜んで」
初夏の爽やかな風が流れる中、研悟は幸せな心地で絵を描いていた。
こんな風に、満たされた思いで絵を描くのは何十年ぶりだろう。
「宮崎さん」
スケッチブックから目を離さないまま、研悟は話した。
「僕は今、幸せです」
「何ですか、急に」
笑いを含ませて心路は答えたが、研悟は真面目に続けた。
「こんな幸せを僕にもたらしてくれた彩人くんに、感謝してます」
「ありがとうございます」
「そこで、あの。もしよかったら」
「はい」
「僕と、その。お付き合いしていただけないでしょうか?」
え、とそこで心路は初めて口をつぐんだ。
研悟はもう、スケッチブックを見てはいなかった。
心路を見つめ、彼の返事を待っていた。
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