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第四章・7

「あれだけ昼寝したのに、また眠るなんて」 「力作を描き上げましたからね。相当エネルギーを使ったんでしょう」  山を車で降りながら、研悟と心路は静かに話した。 「心路さんも、少し仮眠をとるといいですよ」 「そうさせてもらってもいいですか?」  どうぞ、と研悟が言った途端に、心路は彼の肩に首をもたれかけた。 (あ! はわゎ、わゎゎ……)  心路の甘い仕草に、研悟は慌てた。  しかし、心路はもう瞼を閉じている。 「これはちょっと。いや、相当嬉しい展開だぞ」  本当に、僕はこの人とお付き合いすることを許されたんだ。  いや、しかし。 「好意を言葉で伝えていない」  普通、付き合うきっかけは、好きです、とか何とかいう言葉からだろう。  何たる不覚。  しかし、いまさら好きです、とは言いにくい。  そこで研悟は、眠っている心路にそっと囁きかけた。 「心路さん、好きです」  こくり、と心路の首が動いた。  それは、愛の言葉をちゃんと聞いていますよ、とでもいうような素振りだった。

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