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第五章・5
隣同士で密着して寝たものの、心路は動けなくなってしまった。
(私から誘えば、淫らなΩだと思われるかも)
そんな風に、自分を過小評価する癖は小さい頃から身についていた。
Ωに生まれ、Ωとして育ったがために。
そっと唇を噛んだその時、研悟が心路の手を取った。
「手のひらの、大きさ比べをしましょうか」
「え? はい」
心の手のひらが、研悟の手のひらに重なった。
これが、研悟さんの手。
大きくて、固くて、頼もしい。
これが、心路さんの手。
小さくて、柔らかくて、優しい。
そのまま指を絡め、向かい合わせに横になった。
「心路さん、愛してます」
「私も、研悟さんのことが大好きです」
どちらからともなく、唇を合わせた。
初めての、キス。
それは途方もなく心地よかった。
「研悟さん、私」
「心路さん」
ゆっくりと互いの唇を食んで、やがて互いの舌を絡ませ合った。
(ああ、研悟さん。好きです、研悟さん)
心はそう念じることで、パートナーのある身でありながら、他の男と口づけをする背徳感から逃れた。
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