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第七章・2

 離婚して欲しいんです。  ようやく伝えた心路の願いは、嘲笑をもって応えられた。 「冗談。俺と別れる、だって?」 「本気です。もう離婚届は準備してありますから。あとは凌也さんの判がいるんです」  そこでようやく、凌也は心路が真剣だということを悟った。 「俺と別れたら、その家は出て行かなきゃならないんだぞ。アテはあるのか?」  心路の住まいは、凌也の持ち家だ。  おかげで家賃の心配はなかったが、離婚すれば出るしかない。 「それは……」  わずかな心路の隙を、凌也は見逃さなかった。 「心路。お前、男ができたな?」 「そ、それは」 「その男の所に、転がり込むつもりか」  許さないぞ、と電話口で怒声が響いた。  許さない。  俺というパートナーがいながら、他の男にうつつを抜かすなんて。 「絶対に、許さないからな!」  以前の心路なら、凌也の怒鳴り声に身をすくめて黙ってしまう所だ。  結局、彼の言いなりに動いてしまう所だ。  だが、心路は強くなっていた。  研悟という男性に愛されてから、芯のしっかり通った心を持つようになっていた。

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