50 / 70
第八章・2
「先生のお腹、なんで段々になってるの」
「腹筋だよ。絵を描いたり彫塑をしたりするには、力仕事もいるからね。鍛えてる」
「触ってもいい?」
「いいけど、まずはお風呂に入ろう。風邪をひくぞ」
髪を洗ったり、シャボンで体を泡だらけにしたりしながら、彩人は楽しくバスタイムを過ごした。
バスタブに二人で浸かると、湯が勢いよくあふれ出し、それも彩人を喜ばせた。
「すごい。パパとお風呂に入るのと、全然違う」
「そのパパのことなんだけど」
研悟は、声を潜めて彩人に持ち掛けた。
「危険が迫っている。心路さんに」
その言葉に、彩人は顔つきを引き締めた。
「何で?」
「今度の金曜日、彩人くんのお父さんが心路さんに会いに来る」
彩人の顔色が、さっと変わった。
「ダメだよ、そんなの。あいつ、いつもパパをいじめてたんだ」
「そうか、やっぱりダメなのか」
実の子に『あいつ』呼ばわりされるようでは、凌也はすでに終わっている。
研悟は心置きなく、彼をこの家庭から追放しようと決めた。
「それで、彩人くんに頼みがあるんだけど」
「パパをあいつから守るためなら、なんでもするよ」
「よく言った。じゃあ、金曜日に……」
二人は、心路の知らない間に、秘密の計画を練り上げた。
ともだちにシェアしよう!