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第九章 解放

 ただいま、と言って凌也は現れた。  手には、甘く香る花束なぞ持って。 「凌也さん」 「元気にしてたか?」  その笑顔は、変わらず秀麗だ。  2年の月日が、たちまち埋まってゆく心地を、心路は感じていた。 (いけない)  この笑顔に、何度騙されたことか。  それに、今の心路には胸に宿る人がいる。 (研悟さん、私に勇気をください)  凌也は家へ上がり込み、まるで自然な所作でソファに座った。  ローテーブルの上には、離婚届の書類が置いてある。  そこでようやく、彼は眉を曇らせた。 「こんなもの、捨ててしまえよ。俺はお前と、別れないからな」 「なぜですか。2年も顔を合せなかったのに」  そんな心路の頬に手のひらを寄せ、凌也はぬけぬけと言った。 「2年間顔を合せなかったから、新鮮味が戻ったろ? やり直そうぜ、また1から」  それから。 「誰だ? 俺の心路に手を出した間男は。ただじゃ置かない」 「ここには、いません」 「会わせろ、って言ったろ」 「会ってどうするんですか」 「一発殴ってやらなきゃ、気が済まない」

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