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第九章・2
この乱暴な思考回路は、ちっとも変わっていない。
心路は、少しでも、一時でも彼になびいた自分を恥じた。
何度殴られれば、目が覚めるのか。私は。
「電話して、呼び出せよ。馬鹿だから、ホイホイ出て来るだろ」
「研悟さんのこと、そんな風に言わないでください」
とにかく、と心路は離婚届を凌也に突き付けた。
「判を押して、私と縁を切ってください」
「くどいな」
凌也が、腕を振り上げた。
(ぶたれる!)
反射的に目を閉じた心路だったが、頬を張られることはなかった。
玄関のチャイムが鳴ったのだ。
「誰だ、出てみろ」
凌也に命じられるまでもなく、心路は防犯カメラで外の人物を確認した。
(まさか、彩人が帰って来たんじゃ……)
彼なら、研悟さんのところに預けているのに。
ところが、そこに立っていたのは、研悟その人だった。
「なぜ、研悟さんがここに? 彩人は?」
研悟、との名を聞いて、凌也が動いた。
「間男くんの登場か」
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