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第九章・3
半ば強制的に、心路は研悟を屋内へ迎え入れさせられた。
「ごめんなさい、研悟さん」
「いや、僕も会っておきたいと思っていたから」
あなたが、凌也さんですか。
研悟は、凌也を見下ろした。
「図体だけでなく、態度もでかいな。俺の心路をたぶらかしておきながら」
「今の心路は、あんたのものじゃない。いや、未来永劫、誰のものでもない」
彼は、彼だけの。
自分自身のものなんだから。
「心路は誰の所有物でもないよ。その彼が、離婚を決意したんだ。黙って判を押さないか?」
「黙って聞いてりゃ、屁理屈こねやがって」
凌也は、拳を握った。
「いけない。研悟さん、逃げて!」
心路が、凌也の腕に取りすがった。
「殴られます。彼、高校時代はボクシングやってたんです!」
にやり、と凌也は笑った。
「心路に免じて、一発だけで済ませてやる。殴られたら、消えな」
凌也はすがる心路を振りほどくと、思いきり研悟に右ストレートを喰らわせた。
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