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第九章・4

 派手に吹っ飛ぶ、と思われていた研悟は、倒れずその場に立っていた。 「どうした。元ボクシング部。それで終わりか?」 「てめぇ……!」  研悟は、避けるどころか凌也の拳を頬骨で殴りつけていた。  痛くないわけじゃない。  だが、研悟には研悟の考えがあった。 (僕が倒れるのが先か、彩人くんが助けに来てくれるのが先か)  再び、凌也が大きなモーションを取る。  次は腹に、その拳がめり込んだ。  それでも研悟は、倒れない。  鍛え上げた腹筋は、ただの飾りではないのだ。  膝をつきもせず、唇に笑いを張り付けている研悟を、凌也は心底憎んだ。 「ボコボコにしてやる!」 「望むところだ」  心路の必死の制止も、二人の男には届かない。  凌也に殴られ続ける研悟を、心路は涙を浮かべて見ているしかなかったが、妙な疑問も湧いてきた。 (あんなに力強い研悟さんなら、凌也さんを攻撃することだってできるはずなのに)  だのに、研悟は終始受け身だ。  指一本、凌也に手出しをしなかった。  一体、なぜ。  答えは、彩人が運んできた。

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