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第九章・6
心路と彩人に付き添われ、研悟は病院で精密検査を受けた。
仮にも、元ボクシング選手に殴られっぱなしだったのだ。
大事を取ってのことだった。
幸い頑強な研悟の体は骨を折るどころか、ひび一つ入っていなかったのだが、顔はひどいものだった。
唇を切って血を流し、目の周りは青黒くなり、瞼は大きく腫れていた。
「ごめんなさい、研悟さん。ごめんなさい……」
「泣かないで、心路。これは勲章だよ」
それにしても、と研悟はもう一人の小さな殊勲者の頭を撫でた。
「彩人くん、ありがとう。タイミング、ばっちりだったよ」
「もう少し早く、お巡りさんが僕の話を信じてくれればよかったのに」
「なぁに。これくらい殴られないと、傷害罪にはならないからね」
心路は、まだ泣いていた。
「私がふらふらしてたから。研悟さんどころか彩人まで巻き込んで」
「パパ、それは違うよ。僕は巻き込まれたんじゃない。自分から進んで、役目を引き受けたんだ」
「そうだよ、心路。彩人くんは、君の家族だろう?」
家族の危機は、家族みんなで乗り越えなきゃ。
研悟の言葉が、心路の胸に染み入った。
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