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第九章・7

 事情聴取の結果、凌也はまだ恋人とは別れてはおらず、心路には単純な執着心で近づいたのだと判った。  よりを戻すつもりなど、無かったのだ。  研悟は裁判沙汰にする代わりに、凌也に離婚を勧めた。  今度ばかりは、凌也も素直に判を押した。  心路を奪われることは悔しいが、事を荒立てると勤めている会社内での信用問題にかかわる。  従わざるを得なかった。 「心路、これで君はもう自由だよ」 「パパ、よかったね」  晴れやかな顔の心路だったが、研悟の顔は未だひどい有様だ。  それを見ると、心の胸は痛んだ。 「私のせいで、こんな」 「痛くもかゆくもないよ。君のためなんだから」 「ありがとうございます」  ただ、と研悟はひとつ心路に願いがある、と言ってきた。  何だろう。 「何でも言ってください。私、何でもしますから」 「じゃあ、甘えるけど。僕の家へ、引っ越してきてくれないかな?」  彩人は跳ねて喜んだ。 「やったぁ。パパ、先生の所に行こうよ!」 「そんな。そこまで甘えるわけには」 「この顔で頼んでるんだよ?」 「……じゃあ、お世話になります」  三人に、みんなに、ようやく笑顔が戻った。  入道雲の輝く、暑い夏の日の夕方だった。

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