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第十章・2
結婚を前提としたお付き合い。
なんて甘美な響きだろう。
研悟はぼんやりするところだったが、寸でのところで踏みとどまった。
「僕としては、そのまま結婚したいくらいの気持ちだ!」
心路や彩人と過ごした半年は、研悟の人生を実りあるものにしていた。
安らぎと同時に刺激も受け、新作がいくらでも描けた。
どれもが高額で売れ、財産もできた。
「彩人の絵が入選したら。心路、僕と結婚して欲しい」
「あ、あの」
まさかの、予想をはるかに超えた研悟の返事だった。
しかし、断る理由なんて一つも無い。
「はい。結婚しましょう」
焼き芋をしながらのプロポーズだなんて、後々思い出せば恥ずかしい。
しかし、今しかないくらいのタイミングだった。
気恥ずかしくて芋を手でいじりながら、もじもじしている二人に、彩人は一人神様に祈っていた。
(神様、今まで賞なんてどうでもよかったけど、やっぱりやめます。絶対に入賞させてください!)
芸術の神に愛された彩人の願いは、形になって現れた。
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