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苛立ち
吉木とシノブは同じマンションに住んでいる。だから帰り道はどうせ同じだ。
収録の後の打ち上げで、声を荒げた吉木にシノブは驚いていた。タクシーの中でも一言も話さない。こんな吉木は初めて見た。何かブツブツ言っている。さっきの話の流れを考えると、きっと明石先生との間に何かがあったのだ。仲良しだと思っていたのに、確かにここ最近、スタジオでも会わなかった。きっと忙しいのだと思っていたのだが、どうもそれだけではなさそうだ。
その時、シノブの携帯が光った。
恋人レオからのラインだ。
”そろそろ帰ってくる?クリスマスに間に合いそう?”
かわいいぐずってるキャラクターのスタンプ付きだ。返信を返す。
”今打ち上げ終わって、吉木さんとタクシーで帰ってるよ。後10分くらいで着くかな。だから待っててね”
投げキッスをしているスタンプと一緒に送った。
”え?吉木さんと一緒のタクシーなの?何もされてない?”
前の一件があってから、レオは吉木のことを嫌っている。
”大丈夫。今日の吉木さんなんか変だから。さっきから隣で怒ったりブツブツ言ったりしてる”
”どういうこと?なんか訳わかんないけど、とりあえず吉木さんには気をつけてよ!”
心配性なレオだなーと思いながら、大丈夫のスタンプを送り返した。その間も吉木は、携帯を見てはため息をついたりブツブツ言っている。しばらく走ったところで、タクシーはマンションに到着した。
マンションの前にはレオが待っていた。それを見て吉木がぽつりと呟いた。
「ほんとムカつく。あの時俺がシノブを抱いてたら、こんなことにはなってないのに・・・」
シノブはびっくりした顔をして吉木を見た。その顔は今にも泣き出しそうな苦痛の顔だった。
タクシーのドアが開いた。
シノブが降りて、レオの方に足を進めようとした瞬間、吉木にぐいっと手を引っ張られた。あまりに強く引っ張られた為、吉木の胸に飛び込む形になった。
吉木はそのままシノブの口にキスをした。
「んんんんんっっ!!!!!!」
シノブが声にならないうめきをあげている。
レオは咄嗟に、シノブの腕を引っ張り返して、思わず吉木を殴っていた。
「いってえよ!!!!!」
吉木が叫ぶ。
「お前!!!!シノブに何してんだよ!!!!」
レオも叫びながら、もう一発殴りに行っている。
「なんだよ!!!!お前ら!!!!」
吉木がまた叫ぶ。
もう訳がわからない。
シノブはただ叫んだ
「やめて!!!!!もう!!!!やめて!!!!!!」
そう言いながらレオの腕を引っ張った。
レオは次の拳を振り上げていた。
「レオ!!!!やだ!!!!!やめて!!!!」
シノブが叫んだ。
思わず反動でしのぶを殴りかけた。
その瞬間レオも正気になった。
「もうやめてぇぇ」
そう言いながらシノブがぐちゃぐちゃに泣いている。
レオは、シノブを胸に抱いた。
「おい!吉木!!!!!お前二度とシノブにこんなことするなよ!お前先輩だろ!!!もう一度やったら、ボコボコに殴るからな!」
そうレオが言い放って、しのぶを胸に抱いたまま、エレベーターで上がっていった。
吉木はそのままもう一度街の方へ歩いて行った。
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