あっという間に年末というのは過ぎていく。 もう正月だ。なのに、吉木は体調を崩していた。 クリスマスの後も、いろんな仕事が入っていて、連日、大阪、九州、北海道と飛び回ったからだろう。そして、大晦日に部屋に帰ってきたが、その時にはもう熱っぽかった。扁桃腺を腫らしてしまったいるようだ。声を使う仕事をしていると致命的だ。扁桃腺が腫れると上手に声がいつものようには出せない。しかも高熱が出る。こんな時、近くに誰かいてくれたらと思う。 同じマンションに後輩のシノブ君が住んで入るが、前回のあの行動で連絡なんてできる状況ではなかった。かかりつけの喉の専門医も今日は元旦で休みだ。 仕方がない、MG事務所のマネージャー的なスタッフに現況方向だけしておこう。なぜなら年明け８日からあのアニメの放送が始まる。それに合わせて、いろんな仕事が既に６日から入ってきている。もしもこのまま声が出せなかったら、とてもまずい。朝方にメールを飛ばす。 熱は全然下がらない。そのままとりあえず帰りに買ってきたポカリスエットを飲んで、大人しく寝ることにした。 元旦の夕方6時にインターホンが鳴った。オートロックではなく玄関のインターホンだ。朦朧とする中、玄関を開ける。 そこに立っていたのは、明石だった。 「吉木君、大丈夫？熱出して寝込んでるって聞いて・・・」 両手にはどこかで買い物してきたのだろうか？たくさんのフルーツとヨーグルト、飲み物に、缶詰、梅干しなどが入った買い物袋を下げている。 「あ・・・・。うん。薬飲んだんだけど、まだ熱が高くて・・・」 ふらついてしまう。 「吉木君、無理しないで、とりあえず寝て」 そう言って、肩を貸してくれる。一度はこの部屋に来ている明石だ。勝手はなんとなくわかるだろう。 「吉木君、今はとりあえず、ゆっくり寝て。ほら、ちゃんと布団かぶって」 そう言って寝かしてくれた。すぐに冷たい濡れタオルを作っておでこに当ててくれている。 「ありがとう・・・」 そう言ったところで記憶が切れた。 明石は、スタッフから吉木の体調が悪く、寝込んでいるということを昼間に聞いた。新アニメのプロモーションは全て明石のイベント会社が仕切ることになっているからだ。正直、看病に駆けつけようか悩んだ。だが、いても立ってもいられなくなった。幸い、吉木のマンションには一度行ったことがある。覚えやすいロケーションでもあった。確かあの大きな北公園のすぐ側。 マンションの下についた時、偶然、シノブとレオが手を繋いで帰ってきたところに出くわした。二人は初詣に行っていたようだ。事情を話して、下のオートロックを開けてもらった。 部屋の番号も覚えている。覚えやすかったからだ。１０１０。トト。自分の好きなバンドの名前だった。そして、今に至る。 寝室で吉木はぐっすり寝ているようだった。熱は少し下がってきているようだったが、まだ熱い。 明石の携帯が光った。 シノブからだ。 ”吉木さん大丈夫そうですか？僕の家に、冷えピタと、熱さまし用の座薬あります。 持って行きましょうか？” 薬は飲んだと言ったがまだ熱はありそうだ。念の為、貰っておくことにした。 玄関のチャイムがなった。シノブが立っている。レオはエレベーターの前で待っている。 「これ、座薬は大人は一錠で大丈夫です。6時間は空けて使うようにって書いてました。これメモ書きしたので。あと、これ冷えピタです」 「シノブ君、ありがとう。助かる」 「先生、何か困ったことあったら言ってくださいね。僕の部屋７１０で、この三階下なので」 「うんわかった。ありがとう」 そういうと、シノブはぺこっとお辞儀をして、エレベーターの前で待っているレオの元へ早足で駆けていった。可愛らしいカップルだ。いつか自分もあんなパートナーが欲しいと思う。 寝室からガタッと音がする。 「吉木君？大丈夫？起きちゃった？」 「んん・・・水欲しい」 そう言われて、冷たい水と、冷たいポカリスエットと持っていく。 「水でいいの？ポカリスエットの方がいいよ」 「うん。じゃあそっちにする」 手渡しをするとまだ、体が熱い。 「シノブ君に冷えピタと座薬もらったんだけど、使う？熱早く下げた方がいいよ」 「うーん・・・。熱下げないとだよな・・・」 「うん。自分でできる座薬」 「うん。ちょうだい」 「わかった、ちょっと待ってね」 今さっきもらった、座薬を持ってくる。 「これね。包装開けるよ」 吉木が布団の中でズボンをずらしている。座薬を渡すが上手に穴に入れれない様子だ。 「吉木君、恥ずかしいかもしれないけど、今そんなこと言ってる場合じゃないから、座薬貸して。お尻こっちに向けて。入れたげるから」 恥ずかしいのか、動かない。 「ほら！病人に何かしようなんて思わないから！それより仕事までに熱下げないと！」 「は・・・い・・・・すみません・・・」 すっかり大人しくなってしまっている。もぞもぞとこちら側にお尻をむける。 「吉木君、膝曲げて、膝抱えて」 芳樹のお尻があらわになる。座薬を包装ごと摘んで、お尻の穴に挿入する。 「ふわぁっ」 座薬は少し冷たい。冷やしてあるからだ。すぐに熱で溶けてしまう薬だからだ。 「はい、これでいいよ。ズボン履いて。あとは冷えピタ」 吉木のおでこにピタッと貼り付ける。これであとは様子を見るしかない。原因は扁桃腺の腫れだと自己申告があった。あとは治癒を願うばかりだ。 こんなになるまで、仕事詰め込んでしまってたのかな・・・。明石は少し心配になった。その次の日、熱はだいぶ引いているようだった。買ってきたヨーグルトなら食べれそうだというので寝室まで持っていく。体は汗をかいている。タオルをお湯で濡らし、拭いてあげる。 「明石先生、すみません・・・色々と・・・」 正気に戻っているようだ。 「いいよ吉木君。。仕事無理させてたみたいで、申し訳ない。今後はこんなことにならないように、スケジュールももう少し余裕があるものにするから」 「いえ、体調管理できなかった、俺が悪いので、明石先生の所為ではありませんから」 そう言って、体が拭き終わるのを待っているようだった。 「新しい、寝巻きみたいなのある？スウェットとか・・・」 「そこの引き出し開けてもらったらあります」 「了解。開けるね」 スウェットを取り出す。 「はい。それ脱いで、こっちに着替えて。下着も気持ち悪いでしょ？どこ？」 「その上の引き出しです」 パンツも一枚取り出し、着替えさせる。その間、部屋を出る。内心、ドキドキしないといえば嘘になる。自分の好きな男なのだから。 「明石先生、すみません。何もかも」 着替え終わったようだ。 「じゃあそのヨーグルトと、ポカリスエット、また飲んで寝て寝て」 「はい」 明石はそのまま二日の夜まで吉木の家で看病をした。３日には仕事が入っている。そのため、二日の夜中に置き手紙をして帰った。鍵はドアの新聞受けに外から落としてある。 三日の昼に、吉木は目が覚めた。 もう人の気配がしない。ということは明石が帰ったのか。リビングのテーブルには置き手紙がしてあった。 ”冷蔵庫にまだヨーグルトと、果物があります。桃の缶詰も冷えてます。好きなのをなるだけ食べて。塩っぽいものが欲しくなったら、蜂蜜梅を食べてください。冷蔵庫に入ってます。鍵は玄関の新聞受けに落としておきます。起きたら一度ラインください。生存確認の為。無理はしないで下さいね。薬は完全に治るまで、飲むこと！” 綺麗な字でかいてある。 明石らしいといえば明石らしい。面倒見がいいのだなと吉木はふふっと笑った。