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大切な・・・
1月8日になっていた。
本当は6日からラジオの仕事が入っていたのだが、急遽自分の代わりにシノブと霧島にラジオイベントに出てもらった。霧島は、第一回目の犯人役の声を担当している。
そして、七日は、急遽企画を変えて、テーマソングとエンディングテーマの二組のアーティストに焦点を当てるという形の番宣になった、オープニングテーマは、アニメソング界のスターが歌ってくれる。エンディングテーマはシノブの恋人のレオがボーカルを務めるGreenEyesだ。
癪だが、レオにも世話になってしまった。
シノブが説得してくれたようだ。
おかげで、二日間の吉木の穴は上手に埋めることができた。
そして、今日8日。
新アニメ『探偵Rの苦悩』の第一回目放送日だ。
MG事務所に行き、担当部署に、頭を下げて回る。
久しぶりに、ディレクターの田中と、プロデューサーの板東にも挨拶に行った。
「吉木君、もう大丈夫なのかい?」
田中が聞いてきた。
「はい。大変ご迷惑をおかけいたしました。声もこの通りもう大丈夫です」
「そうか、年末忙しかったからな・・・」
「明石が言うように無理させたかもしれないな」
プロデューサーの板東が言う。
「え?明石さんがですか?」
「そうだよ。明石が、駆けずり回って、吉木のスケジュールを組み直させたんだよ。まだ本調子じゃないからって言って。新アニメのプロモーションも少しずつ、企画にアレンジを加えて、シノブ君やそのほかの準主役、原作者まで引っ張り出して。原作漫画の出版社まで引っ張り込んでのてんやわんやだったんだぞ。明石、あいつ3日からずっと働きっぱなしだぞ。休めって言っても、今が正念場ですって言って、譲らねえしな。仕方がないから、MG側からもスタッフ増員して、強制的に昨日やっと休ませたところだよ。それでも家で何かやってたっぽいけどな。あいつまで倒れられたら溜まったもんじゃないからな」
板東が捲し立てるように言う。
「知りませんでした・・・。そんなに色々していただいてたなんて・・・」
「そりゃあ、お前が看板の主役だしな。ある意味お前にかかってるところもあるしな」
「ほんと、ご迷惑おかけしました!」
吉木は深く頭を下げた。
「それにしても、お前は明石に愛されてるなぁ。礼ならアイツに言えよ!アイツはお前のダチなんだろ??」
板東が言う。
その言葉を聞いて、いたたまれなくなった。
「はい。大事な友人です!」
そう言いながらもう一度頭を下げた。しばらく頭を上げられなかった。
なぜなら目が涙でいっぱいだったからだ。
それから、ますますプロモーションは本格化していった。
アニメの放送は、プロモーションが効いたのか、回を重ねるごとに視聴率が上がり、準主役のシノブ君の知名度も鰻登りだった。そして、エンディングテーマソングもランキング上位に食い込む勢いで売れ出した。今やGreenEyesといえば、イケメン揃いのおしゃれなバンドというイメージが付き出している。シノブ君もレオ君も、なかなか二人で手を繋いで外を歩くのは難しくなっていくだろうな・・・なんて思ったりもした。
そして、肝心の明石はというと、まだ忙殺されていた。
なかなか会えない。
避けられているわけではなく、あまりにもスケジュールがお互いにハードなのだ。吉木のスケジュールは多少ゆとりがあるものになってはいたが、制作サイドは人員がいなければ自分で動くしかない。待ったなんてかけられないのだ。
そうこうしている間に、バレンタインまであと3日となっていた。久しぶりの休みが取れた。
偶然にも、和樹からメールが入っている。
”もしバレンタインまでに会えたら、嬉しいな〜なんていってみちゃったり?”
この前、和樹の素顔を見た気がして以来、ずっと気にはなっている。今日は休みだから久しぶりに夕方から体が空く。
18時に店に電話をしてみた。
和樹の指名はできるようだ。19時から予約を入れた。指定のホテルで待つ。
19時ちょうどにドアがノックされる。
ドアを開けると、和樹は真っ赤なコートを着て立っていた。
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