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バレンタイン

バレンタイン当日は町中が真っ赤に染まる。赤いハートのモニュメントや看板、それらが街に溢れるからだ。 MG事務所でもタレントなどにバレンタインのプレゼントが届く。吉木は2年前にフリーランスになっていたため事務所はない。だが、一応、MG事務所が窓口になっている仕事が多いからか、古巣だからか、バレンタインのプレゼントはここに届く。 「今年もたくさんきてますよ〜吉木さん」 女性スタッフに呼び止められた。 「あ〜。ありがとう。手紙とかとチョコレートと分けておいてくれない?」 「例年のようにですね」 「そうそう、チョコレートはそんなに食べられないから、いつものように寄付してくれる?メッセージは紙袋に入れておいて。持って帰るから。チョコ以外のプレゼントの食べ物も一緒ね。寄付ね。品物は、まとめておいてくれたら、考える」 「わかりました〜」 そうことづけて、収録スタジオに向かった。 シノブが先に来ていた。 「おはようございます。吉木さん。その後、体調は代わりなくですか?」 「ああ、その節は悪かったね。もうすっかり元気だよ。レオ君にも謝っておいてくれないか?すまないって」 「レオなら大丈夫ですよ。わかってくれてます」 「ほんとに??俺また睨まれない?」 「あーー。睨まれるのは・・・どうでしょ?でも、もう絶対手はあげないって僕と約束したから、大丈夫ですよ」 「ははは。そうか。睨まれるのは我慢するよ。俺が悪いし」 「あ!でも、もう、裏腹なこととかしないでくださいよ!僕が困るんですから!」 「裏腹ね・・・そうだな。そろそろ素直になる時かもな・・・」 「え?なんて言いました?」 シノブに最後の言葉は聞こえていなかったみたいだ。 「いや。なんでもない」 「それにしても、明石さん遅いですね〜」 女性スタッフが言っている。 「え?今日明石先生も一緒なの?」 「はい、その予定なんですが・・・・」 そこにプロデューサーの板東が走ってきた。 「おい!明石が倒れたみたいだ!!」 騒然とする。 「え??どこで??大丈夫なんですか?」 シノブが動揺している。 「ああ、前の打ち合わせに来なかったから、おかしいと思ってスタッフに見に行かせたら、玄関でぶっ倒れて頭から血を流してたって、連絡があった。今救急車で病院に運んでる」 吉木は血の気が引いていく感覚がしている。 「とりあえず、今日の収録はしなくちゃ締め切りに間に合わないから、予定通りこなしてくれ。また、様子がわかったら必ず知らせるから」 そう板東は言って、去っていった。 「明石先生大丈夫でしょうか・・・?」 シノブが不安そうな顔をしている。 ”ここは自分がどうにか立ち回らないと・・・” 吉木はそう考えていた。 「皆さん落ち着いて、とりあえず、締め切りに間に合わせましょう」 そうみんなに言って、落ち着かせる。 「そうだな、よし、明石の分もやるぞ!」 そう言ってディレクターの田中が入ってきた。 「よし!録るぞ!!」 「はい!!!」 その日の収録は無事に終わった。 バレンタインのチョコレートの寄付はスタッフに任せて、プレゼントもお金になりそうなものはそのまま寄付をする。メッセージや手紙は袋にまとめてもらえていたため、それを持って事務所を出た。シノブも付いて来たがったが、まだ彼は仕事が終わらない。必ず連絡をするという約束をして、吉木は明石が運ばれたという病院に向かった。 病院に着くと、プロデューサーの板東と入れ替わる形になった。 「おお、吉木、ちょうどいいところに来た。俺は今から事務所に戻る。明石の命に別条はないようだ。ただ、過労が祟って、ぶっ倒れただけみたいだ。頭から出てた血は倒れた時に打っただけで、傷自体は大したことはないそうだ。よかったな。吉木」 そう言って出て行った。 病室には明石がすやすやと寝息を立てて寝ている。点滴をされていて、白い腕に管がつながっている。青白い血管がくっきりわかるくらいだ。 「こんなに細い腕なのに・・・。頑張りすぎなんだよ。ほんと」 そう言って、寝ている明石の手を握った。 そのまましばらく寝てしまっていたらしい。 吉木は自分の髪を触る感触で目が覚めた。 顔を上げると、明石が優しく笑っていた、 「吉木君、ごめんね。今度は僕が倒れちゃった」 「ほんとだよ!!お前が、倒れたら、回らないんだよ!しっかりしてくれよ!」 そう言いながら、きっと俺は涙目になっていただろう。 「うん、ごめんね」 そう明石が呟くもんだから、ますます手が離せなくなっていた。 看護師さんが点滴を抜きにきた。 「明石さん、今日はもう帰っても大丈夫ですって。でも、仕事はあと二日は大事をとって休みなさいとのことです。自宅にはどうやって帰りますか?」 そんなことを聞いてくる。 明石は自分でタクシーで帰るというではないか。そんなことはさせられない。 「俺が、付き添いますから、大丈夫です」 そう言って明石の顔を見る。 「え?でも吉木君も仕事・・・」 「今日はもう終えてきた。明日の昼までは空いてるから、この前のお返し。今度は俺が看病する番。これでもうおあいこにしよう」 そう言って手を握った。 明石はまた優しく笑った。 明石の家に連れて帰る。 本当は俺の家でもいいと思っていたのだが、それでは、仕事が全くできなくなるから嫌だと言って聞かない。ベッドの上でできる分の仕事しかしてはいけないと約束をさせて、その日は明石の家に一緒に帰った。 「何か欲しいものはある?今のうちに買いに行ってくるから」 そう尋ねると、 「んーと、桃の缶詰食べたい。あとヨーグルトと梅干し」 自分が倒れた時に、明石が持ってきたものだ。 「わかったよ。買ってくるな。大人しくしといてくださいよ、明石先生!」 そう言ってマンションを出る。 そうだ、シノブにラインを入れておかねば。 ”明石先生は無事に退院しました。今明石先生の家に連れ帰りました。 今回は俺が看病する番だから、心配しなくていいよ” すぐに返信が来た。 ”わかりました。何かあればおっしゃってくださいね。遠慮せずに” 了解とスタンプを返す。 さて、桃の缶詰・・・梅干し・・・思い出しておかしくなった。きっと子供の時からこのセットなんだろう。なんだか可愛らしく思えた。 次の日も吉木は明石の家に泊まって、着替えだけ済ましに家に帰る。朝には梅粥まで作ってくれた。明石は、吉木がまさか料理までできるなんて思ってなかった。その日も仕事が終わり次第、直行で明石の元へ帰ってくる。 こんなに優しくされたのはいつ以来だろう? この幸せが続けばいいのに・・・ なんて思ってしまう。 でもきっとまだ、淡い希望なんだろうな・・・ なんて明石は考えていた。

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