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第5話

「紅の瞳に、本当に映える色よね。我ながら、うまく染められたわ」 カットとカラーを終えて、ドライヤーで髪を乾かしながら自画自賛するマリーに、ドライヤーの仕組みが気になるのか、ギレンはそれを凝視している。 タイラが言っていたように、ここの人間たちは髪の色や目の色を見ても嫌悪することもなく、対応も好意的である。 「いいデザインで切っていただいてありがとうございます。とても似合ってますね」 「炎の王子様って感じよね。何度見てもイイおとこ」 マリーは手のひらでギレンの顔を何度も撫でて、流石にギレンも眉を寄せた。 「カラコン買って、目の色も変えようと思うのですが、何色が合うと思いますか?」 「えー。赤も素敵じゃない。変えちゃうなんてもったいない」 ギレンはタイラとマリーの言葉が分からずに、首を捻ったまま鏡の中の自分の姿を見る。 自分たちの世界では、持っている色を変えることはできない。染めようとしても、世界に張られた魔力がそれを阻止する。 生まれもった色で階級が決まるのだ。 黒の髪や目の色は神の色で勇者しかもてない色。 金は王族と貴族のみ。赤と茶色は騎士や戦士、青や水色は神職、緑とグレーは農民、銀や白髪は奴隷となる。中でも白髪で赤い目をもったものは生贄となる運命だ。 茶髪や金髪であっても、目が赤い物は奴隷に落とされる。 全てが外見だけで判断されていた。 「そうだな、紫とか綺麗かもね。薄い青のカラコン試そうかな」 ぶつぶつ呟いてから、タイラはマリーさんに紙を何枚か手渡して、戸惑うギレンの腕を引いて店を出た。 「僕は、王様の話を信じて、お前が悪い奴だと思って戦ってきた」 「オレは悪い奴だ。ニンゲンなど根絶やしにするつもりだった。いや、今だってできるなら魔神ともう一度契約をして、国ごと滅ぼしたい気持ちに変わりはない」 反論するようにギレンが言葉を返すと、タイラはそうかなとつぶやいて、空を見上げた。 「最初から人間を全滅させたかったわけじゃないだろ」 「最初は、数人だった追手が、軍隊になった。だから、逃げるために魔神の力を得た。勇者も何人も追ってきた……いつまで経っても、逃げきれない。だったら根絶やしにするしかないだろ」 ぽつぽつと語り始めたギレンに、タイラは何度か頷いた。 「ただ、生きたかっただけだろ」 「いや、そうじゃない。ニンゲンどもに思い知らせてやりたかった。オレはいいやつではないから、そんな風に理由つけようとしなくていい。根絶やしにして、嘲笑いたかっただけだ」 「そう。まあ、そうなっても、あの国の自業自得だけど、利権を貪るためには文字通りスケープゴートが必要だったってことか」 無駄な人だすけをしてしまったなとタイラは呟いてから、後ろをあるくギレンを振り返る。 「だから、僕はギレンに幸せになって欲しいかな」

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