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大河の告白
星野大河。今年32歳になる。
今はバーBitterを先代のマスターから譲り受け、経営しているが、バーテンダー歴は5年と言ったところだ。
先日俺は妻に逃げられた。
いや、手放されたのか?
どちらにせよ、俺の妻は離婚届を書いて、海外へ行ってしまった。それは俺と彼女の間に色々あった事、そして、俺と俺の男との間にあった色々なことが絡んでいる。
俺は父子家庭で育った。
小学校5年の時に父と母は離婚し、俺は父親に引き取られた。4歳年上の姉がいるが、姉は母親に引き取られた。
あの時、俺も母親に引き取られていれば、また違う人生になっていたかもしれない。
父親は女にルーズな人で、俺が中学に上がる頃には14歳も年下の女と再婚した。早くに結婚していた両親は若くして俺と姉を産んでいる。
だから父親の14歳年下の再婚相手は、俺と10歳しか違わなかった。姉とは6つしか違わない。
そんな女が、俺の母親なんかできる訳が無い。
毎日家に帰ると親父と新妻が毎日やっている。
俺は思春期真っ只中だった。そんな家にはいられない。よく夜の街をフラフラしていた。
その嫁と親父はたった3年で離婚する。
そして、俺が高校に入った頃にまた違う女と親父は再婚した。今度の女は18歳も年下だった。俺と6歳しか違わない女だった。
この女は女狐だった。
俺が夜の街で遊んでいる時に知り合った男の元カノだったのだ。
その当時、俺はもう童貞を捨てていた。
中学の時に家が荒れていたのだから当然だろう。
俺は身長も大きかったし、見た目も悪くなかった。
すぐに女ができた。
だから家に帰りたくない時は中学の頃から年上の女の家に転がり込んで、することをしていたのだ。
この高校の時の母親もどきの女狐は美人局みたいな事を元彼と組んでしていた。
すでに自分の性的嗜好に気がつき始めていた俺は、綺麗な男の家にも転がり込んでいた。
それをこの女狐の元彼に見られたのだ。
金こそせびられなかったが、ますます家には居にくくなっていた。俺はこっそり親父の貯金から金を引き出し、安いアパートを借りた。
そこで、自分の食いぶちの金をヒモみたいな事をして稼いでいた。
それをどこかで学校のやつに見られたみたいだった。
すぐに噂は広がった。だが、逆に背鰭尾鰭がたくさんついて、どれが本当のことなのかさえ分からないくらいになっていた。
元来俺は勉強もできた。
学校では良い子を演じていたのだから、特別先生たちにバレることもなく過ごしていた。
そんな時にクラスメイトの亜希子と仲良くなったのだ。
亜希子は今までの女とは違って変わっていた。
興味のある事以外はどうでもいいと言った捌けた女で、俺の噂など全く気にしない女だった。
ある時、俺と付き合いたいと告白をしてきた。
俺は少し意地悪をした。
もし、俺と同じ大学に入学してついてきたら、付き合ってやると。成績で言うと、亜希子の頭で入るのは少し苦労する学校を選んでやった。
俺は実家から離れられるならどこでもよかった。
安アパートもすぐに引き払って、奨学金でももらって行くつもりだった。
ヒモ生活で、多少の蓄えはできている。
一人暮らしの軍資金くらいは持っていた。
そして、大学受験。
亜希子は俺と同じ大学に合格していた。
そこまでされたのではもう有言実行するしかない
亜希子と付き合うことにした。
付き合ってみると本当に面白い女だった。
軽音楽部があるなら入りたいと、子供の時にやっていたピアノをもう一度猛練習して見たり、外国語が学びたいと、街中ですれ違う外国人に話しかけたり、ある時なんかは外国人の集まる店があるからそこに一緒に来てくれと言われ、行ったらクラブだったこともある。
本当に嵐のような女だった。
抱いてみてもなかなかいい女で、俺のことを心底愛しているのだろうなと思わせてくれるsexをする。一時期ハマりそうになったくらいだ。
こんなに真っ直ぐな女を知らなかったのだから、当然かもしれない。
こちらも筋を通そうと1年間真面目に付き合った。
意外とその関係が心地よかった。
そんな時だ、霧島治に出会ったのは。
2年に上がった俺らは、軽音部の新入生のリハを覗きにいった。その時に、一年だった霧島治に俺は一目惚れをしていた。見た目にと言うより声にだ。
気がつくと亜希子はこの治とよくリハをしている。
俺はこれ幸いとそのリハにいつも顔を出していた。
側から見れば彼女を守るいい彼氏に写っていただろうが、本当は治の声を聞きに行っていた。
そして、三年に上がる時。
亜希子はあっけなく留学した。
俺はまだ筋を通していた。
近づいてくる女には目もくれず、いつも治とつるんだ。治も帰国子女らしく、モテる。
一緒にいて楽しいやつだったが、なぜか俺の前では女を口説かない。
いや、すらすらと臭いセリフや褒め言葉は流暢に吐いている。だが、本気で口説いていないのだ。
俺がバイトの日なんかはきっと女の子と遊びに行っていただろうが、それ以上の噂を聞かないのだ。
デートをしてもキスまででスマートに帰されると・・・。
取っ替え引っ替えデートはしてもそこまでだと・・・。
俺は淡い期待をするようになっていた。
決定打はあの夏の合宿免許だった。
俺は面倒くさくならないように彼女がいると言うことを吹聴して回っていた。
だが治は別に特定の女がいる訳ではない。
なのに、告白されても断ったのだ。
俺の期待が少し膨らんだ。
そうこうしているうちに亜希子から手紙が届く。
1年では帰って来ない気がすると。
もうここまで来ていたら、俺は腹を括った。
そんな時絶好のチャンスが訪れた。
治がスカウトされて初めて声を収録する日だ。
そのまま打ち上げと称して安酒を浴びるほど飲んだ。
俺は元来酒に強い。だから、この酒の勢いでものにしてしまおうと思っていた。
少し、揺さぶりをかける。
案の定簡単に落ちてきた。
俺はバイセクシャルだからどちらでもできる。
この時はなぜだが抱かれようと思ったのだ。
暫く駆け引きもしてみた。
そして、クリスマスに亜希子から来たクリスマスカードが決定打になった。
4年帰らないと。
だから、俺は治に連絡をしてみた。
そして俺の計算通りに治と付き合う事になったのだ。
そこからの3年間は充実したものだった。
俺は大学を卒業し、就職。
治は声の仕事が少しづつ上手く行きだしていた。
俺の好きな声。俺の男。
幸せな日々だった。
そして、24歳の時、亜希子から手紙が届いた。
”そろそろ帰国します。
帰ったら一度会ってください。
まだ優先したい人と付き合ってるの?
もし付き合ってたとしても一度は会いたい。”
そう書かれていた。
この時にはすでに嫌な予感がしていた。
俺はバイセクシャルだと言うことを亜希子にカミングアウトするつもりは全くなかった。
なぜなら、亜希子は高校の時の俺の噂を知っている。
それがどこまで本当なのかを知られたくなかったのだ。
俺の過去を知る人物はこの亜希子だけになっていたのだから、そこは隠しておきたいところだった。
そして治にも知られたくなかった。
久しぶりに治に会えた時、俺は初めて、付き合った証拠が欲しいと思った。
俺は激痛を伴うであろう、舌にピアスを開けたかった。その痛みも覚えておきたかったのだ。
治は痛そうだと言いながら、それでもピアッサーで開けてくれた。
それは今もずっと開いている。
大きく口を開けて舌を見せない限り見えない。
二人の秘密だ。
そして、治は自分の芸名を付けると言って、俺の名前のタイガとおさむの名前を捩って霧島虎尾と名乗ると決めた。
今も彼はその名前で活躍している。
そうこうしている内に、亜希子が帰って来た。
俺は付き合っている人がいると主張したが、亜希子は俺の周りの女を調べたようで信じてくれない。
それはそうだ。付き合っているのは男なのだから。
納得してもらえないならもう望みを一つ聞くしかないと思った。そして、その望みの一つで亜希子は妊娠してしまった。
俺はパニックになっていた。
だが、もうできてしまったものは仕方がない。
俺の子供だということも嬉しかった。
俺は親父みたいなダメな父親にはなりたくなかったし、高校時代の俺を治に知られるのも嫌だった。
亜希子と籍を入れることを選んだ。
そして、治と別れた。
悲しいことは立て続けに起こる。
亜希子が流産した。
そして、子宮体癌があることが発覚する。
その先はご覧の通りだ。
俺はもう何がなんでも亜希子に幸せになってもらわなければいけないと思っている。
まだ治は俺のことを好いていてくれている。それは目を見ればわかる。
だが、俺が蒔いたタネは俺が回収せねばならない。
亜希子が自由になりたいと俺の元を去った。
それは彼女なりの優しさであり、俺への懺悔なのかもしれない。
でもまだ今は俺だけ幸せにはなれない。
それは治にもわかって欲しかった。
これは俺の我儘でしかなかった。
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