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10年間の絆

霧島はすっかりベテランの声優になっている。 事務所も設立し、順風満帆になっている。 そして、大河もBitterのマスターとして経営が軌道に乗った。 二人は変わらずたまに酒を飲み交わす。 亜希子が発ってから、霧島はもう一度大河に聞いたことがある。 「まだ幸せになる準備はできない?」 答えは 「亜希子が幸せになるのが先だ」 だった。 ならばもうじっくり腰を据えてこの大河を愛し抜こうと霧島は決めていた。 その後も霧島は女の子を連れてBitterにやってきた。 マスターは顔色ひとつ変えずに接客をする。 常連の間ではもう有名だった。 マスターと霧島が大学の先輩後輩だと言うこと。 アルバイトに霧島の生徒を雇い入れていること。 二人はライバルだったこと。 いつの間にかライバルという噂になっているが、本当はライバルだったことなんかない。 でもまあそれくらいが丁度いいだろうと二人とも否定せずにいた。 霧島は色んな人をこのBitterに連れてきては営業活動よろしく、また来てやってくれと紹介してくれる。 大河もその気持ちは嬉しかった。 実際アルバイトも助かっている。 求人を出さなくても霧島がいいアルバイトの子を紹介してくれるからだ。 中には性的嗜好で悩む子を連れて来たりもする。 そしてその中には有名な声優になっていく子もいる。 そのうちの一人が去年ここでアルバイトをしていて、今は売れっ子になった声優吉田シノブだ。 大河も陰ながら霧島の元生徒を応援している。 それだけ二人は信頼し合っていた。 あの亜希子が発った年からひとつ変わったことがある。 クリスマスを二人は一緒に過ごさなくなった。 霧島はその日はシガーバーで過ごし、大河は何がなんでも店を開けている。 二人で過ごしたクリスマスのあの日を思い出したくないようだった。初めて告白をし、付き合う事になった日だったからだろう。思い出して、今を考えると辛くなる。 霧島は切ない思いを抱えたまま10年が過ぎようとしている。大河も同じ気持ちではある。 だが、まだダメなのだ。大河は頑固だ。 たまに遅くにBitterに霧島が行くと、もう誰もいない時がある。そんな時には、少し大河にちょっかいを出す。それには大河は応えてくれる。 あのピアスの開いた舌でキスをしてくれる。 だがそこまでなのだ。 もう何度もこれを繰り返している。 小さい別れを毎回味わっている気分だった。 あのサムスミスの曲みたいだ。 ”I’m way to good at good bye” ”僕はさよならするのに慣れすぎている” なんて思ったりしていた。 亜希子が発って10年目のクリスマスイブ。 大河は42歳になっていた。 一枚のクリスマスカードが大河の元へ届いた。 ”もうそろそろ離婚届を出してください。 私にもやっとパートナーが出来そうです。 彼は少しあなたに似ていて、どこか憂いがあります。でもあなたと同じでとても優しい人。 来年の5月に結婚式をする予定です。 だからもう離婚届を出してください。 そして、愛してくれてる人の元へ早く行きなさい! いつまでも待ってくれてるなんて考えは、甘い!!!!!! 男だろ!!大河!!!! 亜希子” そう書かれていた。 そして、パートナーであろう彼との写真が入っていた。 大河は明日のアルバイトの子達にメール連絡を入れる。 ”申し訳ないが、明日は臨時休業にします。店都合なので、クリスマスの手当は、そのままつけます。 急で申し訳ない。また26日から頼みます” そして、大切に保管しておいた、離婚届に自分の印鑑を押す。 次の日の朝イチで区役所に行って離婚届を提出する。 書類に不備もなくすんなり受理された。

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